卒業旅行で海外へ出かけた。とある美術館を見学する。凄い人だかりだった。有名な絵画を鑑賞しようとしても、見えるのは人の頭ばかりである。
それで、すっかり気分が萎えた。元々、芸術に興味がある方ではない。観光名所だから来たまでのこと、とりあえず土産話になったので、それで十分だった。混雑する場所を避け、ゆっくり座って休めるベンチはないかな~と探し回っていたら、良さげな空間を見つけた。絵や彫刻が展示されているのだが、人気が本当に少ない。不人気な作品を集めた部屋なのだろう。
冷やかし半分で入ったら、驚いた。物凄い芸術品が並んでいたからだ。
芸術に詳しくない人間が何を言ったところで意味はないとは思う。それでも衝撃を受けたし、何より感動した。これが芸術の力か! と痛感した。本当にショックだった。まるで生まれて初めてアイスクリームを食べた幼児みたいだと自分でも思う。
作品の横にはパネルが置いてあって、説明が書かれていたのだが、残念ながら読めなかった。これも子供みたいだった。
美術館への入場時に作品の説明を各国語で話してくれる音声ガイドを借りられたのだが、面倒で借りなかったことが悔やまれた。いったん入り口へ戻って音声ガイドを借りてこよう、と思ったが生まれつきの方向音痴が災いし、迷子になってしまった。夢中になって作品を見ていたら、自分がどこにいるのか分からなくなったのだ。案内人も案内板が見あたらず、途方に暮れてしまう。人がいっぱいいたら、その後について歩けばいい。だが、このエリアには人がほとんどいなかった。作品鑑賞にはもってこいだが、こうなると逆に不便だ。
どうしようかなあ……と考え込んでいたら、人を見かけた。キャンバスを立て飾られた絵を模写している。そういう人を美術館の中で何人か見かけた。勉強している画学生なのだろう。集中しているので、ちょっと話しかけにくかったけれど、声を掛ける。
相手は絵筆を止めた。いやはや、申し訳ない。御迷惑をお掛けしますと言い、たどたどしい外国語で入り口に戻りたいことを伝えると、丁寧に教えてくれた。意外といい奴じゃん! 芸術家って変な奴ばっかりかと思ったら、そうでもないんだ、と偉そうに思う。相手の言葉は、こちらの心へスムーズに沁み込んできた。母国語で会話しているみたいで、驚いた。精一杯のお礼を言って教えられた道を通る。外国へ来るとヒアリング能力が向上するんだなあ……と感動していたら、いつしか周囲に賑わいが戻っていた。入り口に戻って、音声ガイドを借りたいことを伝え……られない。相手の言葉も分からない。別の人に代わってもらって、それでも駄目で、三人目になってやっと会話が成立した。さっき感じた語学力の向上とは一体、何だったのか! しかも閉館間際で音声ガイドを借りられなかった。がっかりである。
帰り際、先ほど見学したエリアについて聞いてみた。素晴らしい作品ばかりなのに、人が少ないエリアだと説明したが、相手は笑われた。今は観光シーズンなので、館内はどこも大混雑だと言うのだ。そんなことはない、凄く空いていて、快適に芸術鑑賞ができた、また戻って続きを見たい! と言ったら相手は真顔になった。それから羨ましそうな口調で言った。
美術館の中に、案内板には載っていない不思議なエリアがある、という噂が昔からある。そこは奇妙な空間で、既に失われた芸術品が展示されているというのだ。芸術に興味のある物にとっては夢の世界であり、いつか自分も行って見たいと思っているけれど、ここに勤め始めて三十年以上になっても、そこへは辿り着けずにいる。あなたは選ばれたのだ、それがとても羨ましい、とのことだった。
何かの間違いだとしか思えなかったので、話半分で聞いていたけど、その都市伝説は有名らしく、帰国後この話をしたら皆に羨ましがられた。
だけど正直、メリットは感じない。芸術で飯を食べる人生設計はないので、自分が選ばれたとしても無意味だと思う。あの美術館へ再び行く機会があれば別だが社会に出たら、そんな時間は確保できない。どうしろというのか? とも感じている。
それでも不思議な美術館内の美術館への入館を許された身として、何か芸術活動を始めねばならないかな……と考えないでもない。芸術オンチを卒業するのだ。とりあえず生成系AIをダウンロードしてみた。良いのが出来たら公開したいのだけれど何をやっても、見ていると眩暈がして頭が変になりそうな絵しか創造できずにいる。これも一種の芸術かもしれないが……人には見せられない。
それで、すっかり気分が萎えた。元々、芸術に興味がある方ではない。観光名所だから来たまでのこと、とりあえず土産話になったので、それで十分だった。混雑する場所を避け、ゆっくり座って休めるベンチはないかな~と探し回っていたら、良さげな空間を見つけた。絵や彫刻が展示されているのだが、人気が本当に少ない。不人気な作品を集めた部屋なのだろう。
冷やかし半分で入ったら、驚いた。物凄い芸術品が並んでいたからだ。
芸術に詳しくない人間が何を言ったところで意味はないとは思う。それでも衝撃を受けたし、何より感動した。これが芸術の力か! と痛感した。本当にショックだった。まるで生まれて初めてアイスクリームを食べた幼児みたいだと自分でも思う。
作品の横にはパネルが置いてあって、説明が書かれていたのだが、残念ながら読めなかった。これも子供みたいだった。
美術館への入場時に作品の説明を各国語で話してくれる音声ガイドを借りられたのだが、面倒で借りなかったことが悔やまれた。いったん入り口へ戻って音声ガイドを借りてこよう、と思ったが生まれつきの方向音痴が災いし、迷子になってしまった。夢中になって作品を見ていたら、自分がどこにいるのか分からなくなったのだ。案内人も案内板が見あたらず、途方に暮れてしまう。人がいっぱいいたら、その後について歩けばいい。だが、このエリアには人がほとんどいなかった。作品鑑賞にはもってこいだが、こうなると逆に不便だ。
どうしようかなあ……と考え込んでいたら、人を見かけた。キャンバスを立て飾られた絵を模写している。そういう人を美術館の中で何人か見かけた。勉強している画学生なのだろう。集中しているので、ちょっと話しかけにくかったけれど、声を掛ける。
相手は絵筆を止めた。いやはや、申し訳ない。御迷惑をお掛けしますと言い、たどたどしい外国語で入り口に戻りたいことを伝えると、丁寧に教えてくれた。意外といい奴じゃん! 芸術家って変な奴ばっかりかと思ったら、そうでもないんだ、と偉そうに思う。相手の言葉は、こちらの心へスムーズに沁み込んできた。母国語で会話しているみたいで、驚いた。精一杯のお礼を言って教えられた道を通る。外国へ来るとヒアリング能力が向上するんだなあ……と感動していたら、いつしか周囲に賑わいが戻っていた。入り口に戻って、音声ガイドを借りたいことを伝え……られない。相手の言葉も分からない。別の人に代わってもらって、それでも駄目で、三人目になってやっと会話が成立した。さっき感じた語学力の向上とは一体、何だったのか! しかも閉館間際で音声ガイドを借りられなかった。がっかりである。
帰り際、先ほど見学したエリアについて聞いてみた。素晴らしい作品ばかりなのに、人が少ないエリアだと説明したが、相手は笑われた。今は観光シーズンなので、館内はどこも大混雑だと言うのだ。そんなことはない、凄く空いていて、快適に芸術鑑賞ができた、また戻って続きを見たい! と言ったら相手は真顔になった。それから羨ましそうな口調で言った。
美術館の中に、案内板には載っていない不思議なエリアがある、という噂が昔からある。そこは奇妙な空間で、既に失われた芸術品が展示されているというのだ。芸術に興味のある物にとっては夢の世界であり、いつか自分も行って見たいと思っているけれど、ここに勤め始めて三十年以上になっても、そこへは辿り着けずにいる。あなたは選ばれたのだ、それがとても羨ましい、とのことだった。
何かの間違いだとしか思えなかったので、話半分で聞いていたけど、その都市伝説は有名らしく、帰国後この話をしたら皆に羨ましがられた。
だけど正直、メリットは感じない。芸術で飯を食べる人生設計はないので、自分が選ばれたとしても無意味だと思う。あの美術館へ再び行く機会があれば別だが社会に出たら、そんな時間は確保できない。どうしろというのか? とも感じている。
それでも不思議な美術館内の美術館への入館を許された身として、何か芸術活動を始めねばならないかな……と考えないでもない。芸術オンチを卒業するのだ。とりあえず生成系AIをダウンロードしてみた。良いのが出来たら公開したいのだけれど何をやっても、見ていると眩暈がして頭が変になりそうな絵しか創造できずにいる。これも一種の芸術かもしれないが……人には見せられない。