謁見の間に入った俺とイル。
そこはバスケットボールのコートが二面できるような広さがあった。
クラスメイト達が中央に並べられたテーブルで、ザワザワと談笑している。
貴族達は左右の壁際に並んでテーブルにつき、その後ろに騎士達が立ってた。
……三十……いや、もっと沢山、相当な人数がいるように見える。
俺とイルは、クラスメイト達が座る席の一番後ろへ向かう。
正面にある一番奥の椅子は、他の質素な椅子とは違い、金ピカだ。
あれは王様が座るんだろうな。
その椅子の方を見ているクラスメイトの一番後ろに到着した俺は、自分で椅子を引き、小さくガタガタと小さな音を立て、みんなと同じように座った。
その音で気付いたのか正面の子が俺の方をチラリと見て、驚いた顔をしただけでまた前を向いてしまう。
あれ? この子――。
「勇者の皆様、王が参ります。そのままで結構ですのでお待ち下さい」
――ヤバい、よそ見してる場合じゃないな、タイミングよく王様が来たようだ。
目線を前に戻し、部屋の奥にある扉前にいたメイドさんが、王様が来たことを知らせてくれた後、すぐに扉が開いた。
部屋に入ってきた人物は、金ピカな椅子まで来てメイドに椅子を引いてもらい座ったのだが……金ピカな服を着た『これぞ王様!』って格好の王様だろう人物だ。
だが、まだ三十歳いってるかどうかの王様が話し始めたところへ、かぶせるように喋り始める空気読めない奴がいた。
「勇者様方、お越しいただき感謝する。ビスマス王国国王のカドミウム・フォン・ビスマスだ。皆に来――」
「なあなあ王様~、神様に聞いてんだけどよ、俺達は元の世界にゃ帰れねえようだな、それもお前らのせいでよ」
いきなり話しかけ、この場にいた貴族、騎士、メイドなどの使用人達が『はっ』と息を飲む音が耳に届いた。
「王様よ~分かってんだろ? それに自由に生きて良いらしいんだ、そのためにとりあえず使いきれねえ金と、誰にも命令されねえ地位をくれよ」
クラスメイトの中で素行が悪く、俺の事を無視するだけじゃなく、筆箱やノート、教科書なども隠したり壊し破きしていた奴だ。
そういや先生の話も聞かないで、ホームルームも早く帰りたいのに邪魔とかしていたな金谷は。
それに王様に向かってトンでもない事を言い始めるってか、もう用意された食事に手をつけているぞ……。
「金谷~、住むところも貰おうぜ、美人なメイドもよ~」
「おっ、お前頭良いな、それも頼むぜ王様よ」
金谷のグループで、いつもつるんでいた二人も同調してそんなことを言い始めたが、ガタンと壁際から音が響いた。
「何と言う無礼!」
「不敬であるぞ!」
まわりの立ち上がった貴族達から非難の声があがるが、王様が一声『よい、座れ』と言った途端、まわりは静かになって貴族達は金谷達を睨みながら座った。
マジで召喚の部屋からここに連れてきた騎士達に何も言われたり注意されなかったのか? いや、言われても聞かないか……。
それもだけどメイドの言った通り、みんなの顔を見渡し分かったことは、クラス全員が異世界に勇者召喚されたようだ。
その中の一人、俺の横でふひふひ言ってる奴もヤバそうだ。
――――――――――――――――――――
ふひひっ、僕が勇者ですか、光の玉が浮きながら話しかけてきた時は驚いたけど、異世界に来ても僕はトップになる運命なのですね♪
そう言えばクラス全員がって言ってたのに僕が付き合うつもりだった、西風 茜に色目を使った友里の野郎はいないな? まあ、その後言うことを聞かなかった西風も無視して苛めてやったけどな。
まあ二人ともいてもいなくても、僕が県議会議員で保護者会の会長である父の権威を使い、クラスメイトの親に圧力をかけ、ちょっと無視させただけで登校拒否する奴と、言うことを聞かない女など、僕の異世界ライフの駒には必要ないか。
――――――――――――――――――――
は? 森辻のやろうが俺の事を無視するように命令してたのか? 俺はてっきり金谷の仕業だと思っていたんだが……。
ってかよ、コイツ、さっき俺の事を見ただろ! 横に来てるっての! 目が腐ってんのか!
「――心配は不要、この世界で生きていくために必要な魔道具は渡すつもりだ。魔道士長」
「はっ」
え? 色々と考えてたりしたら何も聞いてなかった……だが何か木箱に入れて持ってきたけど魔道具?
「お、おい委員長、魔道具とはなんの事だ?」
森辻の隣にいつもいて、俺を最初に宣言して無視を始めたクラス委員長の国分に小声で話しかけている。
「なんだ、話を聞いてなかったのかい? この世界は召喚者には厳しい世界、魔物と命のやり取りをしなきゃならないって聞いたよね?」
「お、おう」
ヤバい、何も聞いてなかったぞ……魔物か、俺なら大丈夫なのか? 魔法なんかもいっぱい神様からもらったし大丈夫だよな?
俺の疑問をよそに委員長はさらに話を続けるから耳を傾けながらまわりのみんなの様子も見ておく。
「その為に僕達召喚者は強力な精神耐性の魔道具を嵌めておかないとやっていけないそうですよ、僕達は神様から『精神耐性弱』をもらってはいるけれど、やはり沢山の血なんかを見るとね」
「そ、そう言うことか」
「それに神様に言ってもらえなかったアイテムボックスも付いてるようです、まあ、それほど大きな容量ではないみたいですけどね」
「おお! それは欲しいよな、鑑定も必要だったけど、鑑定は付いてないのか?」
委員長は首を振り、無いんだと分かった。
森辻と国分が話している間も、みんなは次々と腕輪の魔道具を受け取り、ついに俺の手にも渡され、嵌め方の説明をしてくれるそうだ。
ふと、握った魔道具から顔を上げると、テーブルの対面にいた幼馴染みの西風 茜の姿に目がいった。
他のみんなは受け取った腕輪を『かっけー』とか『可愛い~』などと、一つひとつ形やガラの違いをキラキラした目で見ていたが、様子がおかしい。
茜ちゃんは、青ざめた顔で手に持つ腕輪の魔道具を見つめている。
なぜすぐに茜ちゃんと気が付かなかったんだろうと思ったら、あるべき物がなかった……。
産まれてから毛先を整えるだけで、バッサリと切ったことがないと言ってた真っ黒で艶々で、触ると凄く手触りが良かった腰まで伸ばしていた髪の毛が、無理矢理切ったばかりと思える段違いの髪型だったからだ。
その小顔で色白な肌にうっすら桜色の小さな唇に、真っ黒な大きい瞳がわなわなと震えている。
そんな姿で青白い顔色をして何を見ているんだろうと思ったら何か口を動かしたのと同時に茜ちゃんの頭の上にあの文字が浮かび上がった。
――――――――――――――――――――
うそ……これって精神耐性とアイテムボックスはついてるけど、奴隷の魔道具じゃない……。
こんなの嵌めちゃったら……ど、どうしよう、みんなに教え……駄目ね、友里くんが学校に来なくなってからいじめられていたのは私だもん、誰も話なんて聞いてくれないよね。
――――――――――――――――――――
くそ、髪の毛はそのせいか……茜ちゃんが……俺の代わりにだなんて森辻の奴……そ、それもだけど、奴隷の魔道具なのかこれ……。
まずいぞ、やっぱり召喚の部屋で騎士達が言ってた通り、奴隷にするつもりだ。
俺が受け取った腕輪を鑑定したが、やはり奴隷の魔道具のようだ。
――――――――――――――――――――
奴隷の腕輪 精神耐性(中)、アイテムボックス(小)付き、取り外し不可
※奴隷主 ビスマス王
――――――――――――――――――――
国分が言ってた精神耐性とアイテムボックスの機能は付いてるけれど、取り外し不可で奴隷主が王様だ。
茜ちゃんを鑑定すると、やっぱり看破のスキルを持っている。
鑑定じゃないけど、俺も持っていた看破のスキルを使うと奴隷の魔道具ということだけが分かった。
「茜ちゃん、これ」
「ゆ、友里くん。さっきは見当たらなかったけど友里くんも召喚されちゃったんだ」
うんと頷き今度は念話を飛ばしてみる。
『茜ちゃん、返事は頭で考えてね、声に出さなくても通じるはずだから』
「へ?」
『あっ、こ、こうかな? もしもし茜です、友里くん聞こえますか?』
一瞬声を出しかけたけど、すぐに念話で話しかけてくれた。
『聞こえているよ、今は時間がないからその腕輪を違う物に交換しちゃうね』
それだけを念話で飛ばし、自分用の王冠と、茜ちゃんが持っている腕輪を一瞬で取り替えておいた。
もちろんイルが持っていた腕輪もだ。
『うそ! 腕輪が変わったよ! それに身体強化の腕輪だよ!』
『うん、みんなの分は時間がないから無理だけど、俺と茜ちゃんの分だけは交換しておこう』
まわりは一番後ろの席の俺達には見向きもしてないから、気付かれてはいないだろう。
みんなは次々と魔法使いの格好をした爺さんに言われるがまま腕輪を嵌めてしまっている。
俺が持つ腕輪の数も足りないが、半分以上が既に嵌めてしまっているから今さら交換も間に合わない。
『茜ちゃん、なんとかここから抜け出すことを考えないとまずいんだ』
『で、でもみんなは――ああ、もう嵌めちゃってます』
俺から視線をはずして、奴隷の腕輪をなにも考えずに嵌めてしまったみんなの事を見て、オロオロしだした。
このままではまずいな……考えろ俺……。
――――っ! そうだ!
『茜ちゃん、とりあえず嵌めて、その腕輪なら問題ないから。後、ステータスは誰にも言ってない? 知ってる人がいたらこれも難しいんだけど』
俺は茜ちゃんの返事を待たずにイルのステータスを擬装しておく事にした。
そこはバスケットボールのコートが二面できるような広さがあった。
クラスメイト達が中央に並べられたテーブルで、ザワザワと談笑している。
貴族達は左右の壁際に並んでテーブルにつき、その後ろに騎士達が立ってた。
……三十……いや、もっと沢山、相当な人数がいるように見える。
俺とイルは、クラスメイト達が座る席の一番後ろへ向かう。
正面にある一番奥の椅子は、他の質素な椅子とは違い、金ピカだ。
あれは王様が座るんだろうな。
その椅子の方を見ているクラスメイトの一番後ろに到着した俺は、自分で椅子を引き、小さくガタガタと小さな音を立て、みんなと同じように座った。
その音で気付いたのか正面の子が俺の方をチラリと見て、驚いた顔をしただけでまた前を向いてしまう。
あれ? この子――。
「勇者の皆様、王が参ります。そのままで結構ですのでお待ち下さい」
――ヤバい、よそ見してる場合じゃないな、タイミングよく王様が来たようだ。
目線を前に戻し、部屋の奥にある扉前にいたメイドさんが、王様が来たことを知らせてくれた後、すぐに扉が開いた。
部屋に入ってきた人物は、金ピカな椅子まで来てメイドに椅子を引いてもらい座ったのだが……金ピカな服を着た『これぞ王様!』って格好の王様だろう人物だ。
だが、まだ三十歳いってるかどうかの王様が話し始めたところへ、かぶせるように喋り始める空気読めない奴がいた。
「勇者様方、お越しいただき感謝する。ビスマス王国国王のカドミウム・フォン・ビスマスだ。皆に来――」
「なあなあ王様~、神様に聞いてんだけどよ、俺達は元の世界にゃ帰れねえようだな、それもお前らのせいでよ」
いきなり話しかけ、この場にいた貴族、騎士、メイドなどの使用人達が『はっ』と息を飲む音が耳に届いた。
「王様よ~分かってんだろ? それに自由に生きて良いらしいんだ、そのためにとりあえず使いきれねえ金と、誰にも命令されねえ地位をくれよ」
クラスメイトの中で素行が悪く、俺の事を無視するだけじゃなく、筆箱やノート、教科書なども隠したり壊し破きしていた奴だ。
そういや先生の話も聞かないで、ホームルームも早く帰りたいのに邪魔とかしていたな金谷は。
それに王様に向かってトンでもない事を言い始めるってか、もう用意された食事に手をつけているぞ……。
「金谷~、住むところも貰おうぜ、美人なメイドもよ~」
「おっ、お前頭良いな、それも頼むぜ王様よ」
金谷のグループで、いつもつるんでいた二人も同調してそんなことを言い始めたが、ガタンと壁際から音が響いた。
「何と言う無礼!」
「不敬であるぞ!」
まわりの立ち上がった貴族達から非難の声があがるが、王様が一声『よい、座れ』と言った途端、まわりは静かになって貴族達は金谷達を睨みながら座った。
マジで召喚の部屋からここに連れてきた騎士達に何も言われたり注意されなかったのか? いや、言われても聞かないか……。
それもだけどメイドの言った通り、みんなの顔を見渡し分かったことは、クラス全員が異世界に勇者召喚されたようだ。
その中の一人、俺の横でふひふひ言ってる奴もヤバそうだ。
――――――――――――――――――――
ふひひっ、僕が勇者ですか、光の玉が浮きながら話しかけてきた時は驚いたけど、異世界に来ても僕はトップになる運命なのですね♪
そう言えばクラス全員がって言ってたのに僕が付き合うつもりだった、西風 茜に色目を使った友里の野郎はいないな? まあ、その後言うことを聞かなかった西風も無視して苛めてやったけどな。
まあ二人ともいてもいなくても、僕が県議会議員で保護者会の会長である父の権威を使い、クラスメイトの親に圧力をかけ、ちょっと無視させただけで登校拒否する奴と、言うことを聞かない女など、僕の異世界ライフの駒には必要ないか。
――――――――――――――――――――
は? 森辻のやろうが俺の事を無視するように命令してたのか? 俺はてっきり金谷の仕業だと思っていたんだが……。
ってかよ、コイツ、さっき俺の事を見ただろ! 横に来てるっての! 目が腐ってんのか!
「――心配は不要、この世界で生きていくために必要な魔道具は渡すつもりだ。魔道士長」
「はっ」
え? 色々と考えてたりしたら何も聞いてなかった……だが何か木箱に入れて持ってきたけど魔道具?
「お、おい委員長、魔道具とはなんの事だ?」
森辻の隣にいつもいて、俺を最初に宣言して無視を始めたクラス委員長の国分に小声で話しかけている。
「なんだ、話を聞いてなかったのかい? この世界は召喚者には厳しい世界、魔物と命のやり取りをしなきゃならないって聞いたよね?」
「お、おう」
ヤバい、何も聞いてなかったぞ……魔物か、俺なら大丈夫なのか? 魔法なんかもいっぱい神様からもらったし大丈夫だよな?
俺の疑問をよそに委員長はさらに話を続けるから耳を傾けながらまわりのみんなの様子も見ておく。
「その為に僕達召喚者は強力な精神耐性の魔道具を嵌めておかないとやっていけないそうですよ、僕達は神様から『精神耐性弱』をもらってはいるけれど、やはり沢山の血なんかを見るとね」
「そ、そう言うことか」
「それに神様に言ってもらえなかったアイテムボックスも付いてるようです、まあ、それほど大きな容量ではないみたいですけどね」
「おお! それは欲しいよな、鑑定も必要だったけど、鑑定は付いてないのか?」
委員長は首を振り、無いんだと分かった。
森辻と国分が話している間も、みんなは次々と腕輪の魔道具を受け取り、ついに俺の手にも渡され、嵌め方の説明をしてくれるそうだ。
ふと、握った魔道具から顔を上げると、テーブルの対面にいた幼馴染みの西風 茜の姿に目がいった。
他のみんなは受け取った腕輪を『かっけー』とか『可愛い~』などと、一つひとつ形やガラの違いをキラキラした目で見ていたが、様子がおかしい。
茜ちゃんは、青ざめた顔で手に持つ腕輪の魔道具を見つめている。
なぜすぐに茜ちゃんと気が付かなかったんだろうと思ったら、あるべき物がなかった……。
産まれてから毛先を整えるだけで、バッサリと切ったことがないと言ってた真っ黒で艶々で、触ると凄く手触りが良かった腰まで伸ばしていた髪の毛が、無理矢理切ったばかりと思える段違いの髪型だったからだ。
その小顔で色白な肌にうっすら桜色の小さな唇に、真っ黒な大きい瞳がわなわなと震えている。
そんな姿で青白い顔色をして何を見ているんだろうと思ったら何か口を動かしたのと同時に茜ちゃんの頭の上にあの文字が浮かび上がった。
――――――――――――――――――――
うそ……これって精神耐性とアイテムボックスはついてるけど、奴隷の魔道具じゃない……。
こんなの嵌めちゃったら……ど、どうしよう、みんなに教え……駄目ね、友里くんが学校に来なくなってからいじめられていたのは私だもん、誰も話なんて聞いてくれないよね。
――――――――――――――――――――
くそ、髪の毛はそのせいか……茜ちゃんが……俺の代わりにだなんて森辻の奴……そ、それもだけど、奴隷の魔道具なのかこれ……。
まずいぞ、やっぱり召喚の部屋で騎士達が言ってた通り、奴隷にするつもりだ。
俺が受け取った腕輪を鑑定したが、やはり奴隷の魔道具のようだ。
――――――――――――――――――――
奴隷の腕輪 精神耐性(中)、アイテムボックス(小)付き、取り外し不可
※奴隷主 ビスマス王
――――――――――――――――――――
国分が言ってた精神耐性とアイテムボックスの機能は付いてるけれど、取り外し不可で奴隷主が王様だ。
茜ちゃんを鑑定すると、やっぱり看破のスキルを持っている。
鑑定じゃないけど、俺も持っていた看破のスキルを使うと奴隷の魔道具ということだけが分かった。
「茜ちゃん、これ」
「ゆ、友里くん。さっきは見当たらなかったけど友里くんも召喚されちゃったんだ」
うんと頷き今度は念話を飛ばしてみる。
『茜ちゃん、返事は頭で考えてね、声に出さなくても通じるはずだから』
「へ?」
『あっ、こ、こうかな? もしもし茜です、友里くん聞こえますか?』
一瞬声を出しかけたけど、すぐに念話で話しかけてくれた。
『聞こえているよ、今は時間がないからその腕輪を違う物に交換しちゃうね』
それだけを念話で飛ばし、自分用の王冠と、茜ちゃんが持っている腕輪を一瞬で取り替えておいた。
もちろんイルが持っていた腕輪もだ。
『うそ! 腕輪が変わったよ! それに身体強化の腕輪だよ!』
『うん、みんなの分は時間がないから無理だけど、俺と茜ちゃんの分だけは交換しておこう』
まわりは一番後ろの席の俺達には見向きもしてないから、気付かれてはいないだろう。
みんなは次々と魔法使いの格好をした爺さんに言われるがまま腕輪を嵌めてしまっている。
俺が持つ腕輪の数も足りないが、半分以上が既に嵌めてしまっているから今さら交換も間に合わない。
『茜ちゃん、なんとかここから抜け出すことを考えないとまずいんだ』
『で、でもみんなは――ああ、もう嵌めちゃってます』
俺から視線をはずして、奴隷の腕輪をなにも考えずに嵌めてしまったみんなの事を見て、オロオロしだした。
このままではまずいな……考えろ俺……。
――――っ! そうだ!
『茜ちゃん、とりあえず嵌めて、その腕輪なら問題ないから。後、ステータスは誰にも言ってない? 知ってる人がいたらこれも難しいんだけど』
俺は茜ちゃんの返事を待たずにイルのステータスを擬装しておく事にした。