森に入って二日目、川幅は三メートルほどだけど、深さが足首からスネくらいまでしかない小川を見つけ、少し水遊びをすることになった。

「ねえ、なんで水着があるの? それもスク水よ、神様は狙ってるの? セーラー服に小学生の頃着てた体操服っぽいもあるし、なぜゼッケンに『あかね』『いる』って書いてあるのよ!」

 文句言いながらちゃんと着てるし……。

「私の服より着やすいですの。伸びるのです! みよ~んですの!」

「この前、焼肉のタレをもらった時にこれもあっただけだから! イル、引っ張っちゃ駄目! 男の人の前では絶対駄目だからね!」

 二人がなんだかんだ言いながらも浅い川で遊び出したので、俺は少し川下で川底にある石を収納し、深くしていく。

 触手を伸ばし、二メートル五メートルの長方形になるよう五十センチほどまで掘り下げて、まわりに大きめの石を並べ小さなプールを作る。

 これならイルでも少し泳ぐ感覚になれるんじゃないかな。



「浮き輪プカプカなのです! くるくるーって回すのもう一回して欲しいですの!」

「にゅふふふ! 任せなさい! 私はこれでも洗濯機のボタンを毎日押していたの! 回すレベルはマックスよ!」

 いや……洗濯機のボタン押してるだけで、回してるのは洗濯機さんだからな。
 それに回すレベルってなんだよ。

「って茜ちゃん! 途中で回転方向変えたら酔っちゃうよ!」

「めーがーまーわーりーまーすーの~♪」



 半日も、水遊びをしたせいで、今日はここで夜営をすることにした。
 凄く楽しめたし、先を急ぐ旅でもないしね。

 お昼に鮎に似た魚を焼いたところでお湯を沸かし、今夜はカレーにするべく準備を進める。

 お米を炊くのに炊飯器がないので、土魔法で土鍋を造る。

「土魔法って便利ね、私も練習しよっかな、イメージでしょうし、友里くんが土鍋を作ったんなら私は……陶板のステーキ皿造るわ! むむむむむむー!」

 土鍋を造り、触手でお米を研いでる俺のことを上から覗き込んでいた茜ちゃんが横で唸り始めた。

「頑張るですのアカネ! ステーキ大好きですの!」

 同じように覗き込んでいたイルは拳を握りしめて応援してる。

「茜ちゃん、スキルが無いから無理だって、陶板のステーキ皿なら俺がぁぁぁ…………ん? なんでできてるの!?」

 唸る茜ちゃんの目線の先には立派な一人前のステーキ皿で、焼く面がなみなみになっていてる物が鎮座していた。

 これは余分な油を落としながら焼ける奴じゃん! 完成度高いよ茜ちゃん! それになんで土魔法が使えるの!?

「あー、駄目、魔力が一気に無くなった感じ」

 横で腰を下ろす茜ちゃん。
 やはり、できたと言ってもスキルがないと、魔力を沢山使って無理矢理やってる感じなのかな。

「アカネ大丈夫ですの?」

「あはは、大丈夫と言いたいところだけど、一枚が限界かな。三年殺しより魔力を使った感じだし効率悪すぎるね~」

「いや、できることの方が凄いって、まあ、茜ちゃんのステーキ皿を見本に俺が造るよ。造形はバッチリだしね、この人になみなみのところ……あれ」

 茜ちゃんのステーキ皿は、触ると砂浜で作ったお城のように、簡単に崩れてしまった。

「嘘っ! ごめん茜ちゃん!」

「はわわ、崩れちゃいましたの!」

「ありゃ、固まってなかったかぁ、これは無理ね、もっとイメージを固めなきゃ、クソ金谷のツルツル三年殺し計画は失敗してるかも……ショック」

 いや、あれもちゃんと光っていたから、毛根死滅までは行かなくても、しっかり効果はあると思うよ。

「元気出すですのアカネ、ユウリが造ってくれますの。カネタニの頭もやってくれますの」

 魔力不足でガックリしている茜ちゃんの肩をポンポンと叩き、手を頭に移してナデナデするイル。

 そうだな、会うことがあったら茜ちゃんの代わりに仕返しの手伝いはしようと心に誓うよ。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

「ご指導ありがとうございました!」

「「ありがとう(ありがとう)ございました(ございました!)」」

「カネタニ、中々動きは良くなってきたが、お前達の評判は下がり続けている。そろそろ私が取りなすことも難しくなっている」

 はぁ? それくらい師匠の力でごまかすか、ねじ伏せれば良いじゃねえか、拳聖でギルマスなんだからよ。

 ちっ、師匠も使えねえな、クラスメイトの奴等も使えねえし、早いところ拳聖をマスターして好きにさせてもらう方が良さそうだな。

「分かりました。俺から指導しておきます」

「あのな、カネタニ、お前もだぞ? 力があるんだ、私はお前達の力がこの街、この国で役立つと思うからこそ指導をしているんだ。頼むからそこら中で暴れてくれるな」

「「押忍!(押忍!)」」

 冒険者ギルドの訓練場から出ていくギルマスを見送り、俺達も服についた汚れを払い落として訓練場から出て街に繰り出す。

「腹減ったな、オークステーキでも食いに行くか」

「良いね、昨日のところは店を無茶苦茶に壊したから……あっ、その店にしますか? まだ入ったこと無いですし」

 古びた店だが、そこから美味そうな匂いが出てる。

「そうだな、そこで良いだろ、行くぞ」

 店に入り分かったことは、中身も古くさいが客は多そうだ。

「おい、オークステーキを三人前だ、席にあんないしな」

「は~い、オークステーキ三人前で~す、お客さん、席は好きなところに座ってくださいね~、飲み物はいかがですか? この店自慢のキンキンに冷えたエールがおすすめですよ~」

 ソバカスがあるがデケエな! 顔うずめてえ! よし、飯の後はこの女で遊ぶか。

「おう、そのエールも三人前だ、すぐ持ってこい!」

 店の中で、一番デカい席が空いてる。

 俺達はそこへ向かいエールとオークステーキを待つことにした。