「やーけたーかなー♪ すんすん♪ いーい匂いですのー♪」

 湖の畔で石を収納で拾い集めめた後、草の生えていない乾いた砂地にたき火の囲いを作る事にした。
 街で買った薪で火を起こした後、そこそこ大きめのフライパンが置ける台も作り、予定していたバーベキューを始めた。

 逃げていった金谷の事も気にはなるんだけど、俺達は何も悪さは……まあアイスランスがニアミスしたくらいだし、大丈夫だよね。

 茜ちゃんの頭の上で俺が周囲の安全を見守っていると、ジュウジュウと良い音を立て、ワイルドトラウトとスモールクラムをバター焼きにしているんだが、良い匂いがしてきた。

 茜ちゃんの横では、体をユラユラと揺らしながらイルは顔をつきだし鼻をヒクヒクさせ、ちょっと変わったメロディーを付けて歌っている。

 湖の畔は少し風があるのでコゲちゃわないように、茜ちゃんがイルの髪の毛を持っていたヘアゴムで頭のてっぺんに、俺くらいの団子状にまとめられ縛られていた。

 これ……銀髪だから後ろから見ると、雪ダルマだよ。

「これは絶対美味しい匂いってヤツですよ! あっ、またポコって! イルちゃんもうすぐ食べられるからね」

「は~いですのー♪ ヨダレがぁー♪ 止まらない~♪ ので~すぅー♪……まだ?」

 もう何度目かと言いたいくらい何度も『まだ?』『まだですの?』『もう少し我慢なのです』と、目線はフライパンから離さず聞いて来たりするイル。

「そろそろかなぁ~、蓋開けちゃうね」

 音の連続がなくなったので、そっと蓋に手を伸ばし蓋を開ける。
 そっと覗いてみると、ほぼ全てのスモールクラムは口を開けているのが見えた。

「お口が開いてますのー!」

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 バーベキューを終えてもう一つの目的、薬草採取も終らせて、王都には思ったより早く着いた。

 帰り、途中でイルが疲れたようで、茜ちゃんが手を引きながらも船を漕いでいた。なので茜ちゃんがおんぶで王都に帰ってきたからだ。

 もちろん身体強化の継続時間と、今後のために重ねがけした時の体の動きなんかも確かめながらだけど、思わぬ結果が出た。

 茜ちゃんは両手が開くように、ローブを抱っこ紐代わりにイルをおんぶして、小学生の高学年まで俺と一緒に習っていた剣道の竹刀サイズの棒切れを拾い、歩きながら素振りをし始めた。

 身体強化しているからか、竹刀のような軽さじゃなく、木刀くらいの重さがあるはずの棒切れを、片手で何も持っていないかのように振り回していた。

 まあ、あまりに軽すぎて『何も持っていないみたい』『ある程度重さがないと上手く振れないのね』『あっ、この木の枝なら!』なんて言って持っていた枝と交換で、自分の身長くらいあり、自分の腕ほどある太めの枝を拾い上げた。

 まだ小枝がついていて、葉っぱも付いたまま振ろうとしたので、いらない枝を吸収してやり、形を俺の趣味で両手持ちの大剣にしてあげたんだけど『これこれ、ちょうど竹刀の重さだよ』と、ブオン、ブオンと片手で振り回し始め、さっき離した枝も空いている手に持ち『宮本さんだよ!』と二刀流だ……。

 聖女で剣術が使えるのか良いのか分からないけど、街に帰ったら、武器屋に寄ろうって事になった。

「はい、次のって嬢ちゃん達か、嬢ちゃん達、今は買取りできない、殺人未遂の容疑がかかってるからな」


「は? 殺人未遂? どういう事ですか?」

 冒険者ギルドの買い取りの列に並び、直ぐに順番が回ってきたのにいきなりそんな事を言われた。

「おい、私は嬢ちゃん達を連れていくからここは任せたぞ」

「分かりましたギルドマスター。ですがお気をつけを、なにもしていないのに、いきなり攻撃されるとのことですから」

 いつも買い取りをしてくれるおっちゃんが、ギルドマスターって言う事にも驚きだけど、いきなり攻撃されるって……。

『あっ、そう言えば取り巻き君の一人が通報がどうとか言ってました!』

 あっ! ああ~、金谷達か、確かにそんな事を言ってたね……。

「っと、妹の方は寝ているようだな。まあ良い、大人しく付いてくるんだ」

 ギルドマスターは買い取りカウンターを離れ、奥へ続く通路に足を向けながら、クイっと親指で奥を指差した。

『はわわ! どういう事なの友里くん! 友里くんが殺人未遂! いつのまにそんな事したんですか! ……あれ? この世界に来てからずっと一緒ですし、してないですよね?』

『してないよ! 茜ちゃん、俺がそんな事しないの知ってるでしょうが! 一緒の師匠に習ってたんだぞ! 悪い事しようものなら……うわっ、鳥肌っ、は立たないけどゾワって来た』

『ううっ、想像しただけで私もです。今ならワサビが肌でおろせそうですよ』

 茜ちゃんの腕には見事な鳥肌が見えた。

 俺達が、動き出すまで奥を指差した格好のままなのは可哀想なので、念話で指してる方に進もうと言い歩き出すと、真横に。

 真横? いや、ほんの少し後ろでいつでも飛びかかるぞ! って絶妙な位置で俺達に付いてくる。

 そして向かう先には扉が一つしかなく、あそこに入るんだろうなって事が分かった。
 俺達は止まりギルドマスターはノックもせず扉を開けると、廊下の暗さとは比べようもない、明るい部屋が目に入った。

「だれだ!」

 扉が開いた先から聞こえてきた声と、明るい部屋だが物が散乱して足の踏み場もない部屋。

 そしてそこにいたのはあの三人だった。