「成功したぞ! おい! 王様に報告せよ! 勇者召喚が成功したと! 急ぐのだ!」

「はっ! ただちに!」

 ん? んん? 落ちたと思ったけど、大丈夫そう? 誰か喋ってるみたいだし、えっと、石畳で石の壁、石の天井ときて目の前に何か……猫柄おぱんちゅ?

 ……マジで誰この子、そんなにおっぴろげちゃ駄目だよ、とりあえずスカートを引っ張って……あれ? 手が……あ、ああああああああー!

 手を伸ばしたはずなのに、手じゃないじゃないじゃないですか!

 伸ばしたはずの手は、半透明の突起のような何かが見えた。

 え? まさか!? マジ? マジなの!?

 おいロリっ子! ってかそれどころじゃない! まわりは――うわっ、見たことある学生服だらけじゃん! いったい何人いるの!?

 ってか人数もそうだけど、見たことある顔なのに獣耳っ子君や、髭もじゃゴツゴツ筋肉のおじさん……誰だコイツ? それに耳がとんがった絶世の美少女……。

 おい待てや! 俺はメニュー画面にあった通りスライムって事じゃ……。

 半透明、いや、ほぼ透明な手、触手っぽいものが見えるし……。

 あっ、あたりを見渡しても、見たことある顔が……。

 それにさっきまで聞いていた懐かしくもない声が聞こえてきた。

『うんうん。無事にみんな到着したみたいだね~』

 あっ! その声はロリっ子! どうしてくれんだよ! 俺スライムになっちゃってるじゃん!

『え? 僕の声が聞こえてる?』

 聞こえてるよ! それよりどういう事だよ! 普通は召喚されたらちやほやされて、『王女様に魔王を倒してね♡』とか言われて訓練が始まったりするんじゃないのか!

『ん~、本当に聞こえてるみたいだね、どこで繋がったのかな……まっ、良いか』

 良くなーい! 話聞けよ、スライムなんだぞ!

『ああ、それは他のみんなには数個、言語理解と望んだスキル()()を一つ二つ付けただけなんだ。でも東雲友里君には希望通りいっぱい付けたからさ、スライムとかドラゴンくらいしか体が持たないし、ヒト形のままじゃ召喚された瞬間にパーンって弾けてたはずだよ』

 パーン? え? どういう事?

『それはね、あっ、部屋を移動するみたいだよ、隠れておかなきゃプチって、スライムなら……潰れる事はないけど~、そうだね、例えるなら元の世界の()()()()扱いだから気をつけてね』

 へえ、スライムは()()()()扱いなんだぁ……。

 うおいっ! 新聞紙や雑誌でパーンって叩かれてプチってされちゃうじゃん!

『あははは♪ 大丈夫、この世界の紙はそこそこ高級品だからそんな事にはならないよ』

 そういう問題じゃない! 害虫と一緒の扱いだからヤヴァイんだろ! ってロリっ子に文句も言いたいけど今は隠れなきゃ。

 えっと、どうやって動けば……こ、こうかな?

 ハイハイする気持ちで前に進むと――おお! 動ける! とりあえず、あそこの木箱の影に! うりゃりゃりゃ!

『あははは♪ 速い速い♪ ほらほら見付かるよ~、また暇な時に見に来るから頑張ってね~』

 木箱の影に到着した俺は、ロリっ子の遠ざかる声に向かって――。

 もっとちゃんと説明してから行けやぁぁぁぁぁー!

 心の声を張り上げた後、現状の把握をしなきゃと木箱の影からだけど、そ~っと様子を覗いてみる――おい、やっぱりクラスメイトじゃん……クラス召喚なのか?

 おっさんが説明していたけどもう終わったみたい。

 誰も文句も言わず、魔法使いみたいな黒いローブを着た爺ちゃんに続いて、銀色の鎧を着たおっさん達にまわりを囲まれながら部屋を出ていく。

 おかしくない? 普通は騒ぐよね? 騒がなくてもこの状況で大人しくしてるし、内容は分からないが、中には笑って雑談してる子もいるし……まさかロリっ子にこうなる事を聞いてたとか?

 最後の鎧のおっさんが出ていった後――。

 ヤヴァイ! 扉を閉められる!

 俺は木箱の影から飛び出し、閉まり出した扉に向かってダッシュ!

 だけど目の前で、ってか目があるかどうかは分かんないけど、ガシャンと扉が閉まってしまった……。

 のおぉぉぉぉぉぉー! 閉じ込められちゃったじゃん!

 くそっ、どこか別の出口はないのか……。

 まわりを見渡してみると、この部屋は窓もない。
 目に入るのは磨かれた石造りの部屋、その中央に祭壇みたいなのと、俺が隠れた木箱には剣が沢山突き刺さってる。
 そして壁には色んな美人さんの芸術的すぽぽんの絵が等間隔で飾られてあり、一つだけ絵じゃなく、金ピカで縁取(ふちど)られた鏡があるだけ……。

 ん~と、深呼吸……息してないみたいだけどとりあえずなぜか落ち着いた。

 落ち着いたついでにふと目線の低さに気付いたんだけどさ、みんなが歩いて出ていった扉なんだけど……デカくない? そ~れ~で~、俺の目線は高層ビルを見上げてる気分なんだよだよね~。

 ちっこくない俺? 何か大きさを測れるような物は······おっ、誰かの靴が片方落ちてるね、あれなら――。

 ――ぽよよよんと床を滑るように誰かの靴に近付く。
 そして目の前には父ちゃん自慢のワンボックスカーほどの靴がドンと鎮座している。

 待て待て! とりあえずこれはハイカットスニーカーだよね!? ならば横は大きくても三十センチほどでしょ!

 ……た、高さは十センチくらいかな?

 この靴が、巨人が履いていたハイカットスニーカーではないとするならば、俺の大きさは十センチあるかなしか……。

 ちいせえよ! ちんまりしてるよ! ソフトボールよりちょっとデカいくらいしかないじゃん!

 はぁ~、精神耐性あるし落ち着いちゃうから無理矢理騒いでも仕方がないが、とある有名スライム主人公は確か……抱えるくらいの大きさだったよね、それより格段に小さいのかぁ。

 それにやっぱり、この落ち着いてしまうのなんか調子狂うけど、普通ならもっとツッコミ入れ、じゃなくて混乱しまくりだよなぁ。

 っと、こんな事してる場合じゃないよな、とりあえず……鏡があるみたいだし、次は姿の確認だよね。

 俺はぽよ……ぽよ……ぽよと、金縁の鏡に向かってとぼとぼと歩く気分で進む。

 近付くにつれて見えてきたものは、そう、かの有名な魔王スライムに良く似たものが鏡に映っていた。

 ええ~、まんまパクリじゃ~ん。

 ん? だったら人間の姿に! ……駄目か、今はできそうなスキルも無かったはずだし、あの小説みたいに人を食べなきゃ駄目なんでしょ? 無いわ~。

 それに今はお腹も空いてないし、ってか空いたら食うんかい!

 ま、まあそれは後でも良いかも知れないけど、あれって確か薬草とか色んな物を食べてたよね? お腹すくのかな? ってか俺にあんな感じに食べられるのか?

 目の先には木箱に入った剣……ぽよぽよと近付いて、木箱に取り付き、登れるのには驚いた。

 壁歩きできるじゃん!

 おっと、はしゃいでる場合じゃない、とりあえず剣に触れたんだけど……みるみる剣は溶けて吸収されていく。

 と、とりあえず、味はしないけど剣は食べれたね。

 体に染み込んでくる感覚はあったけど、満腹感もないし、栄養になってるのかどうかは分からないが、しばらくの食べ物はこれで良いか。

 あっ! 無限収納があったよね! この部屋の残りの物も収納しておきましょう。

 俺は木箱ごと収納して、ペチョっと足場がなくなったため床に落ちた……。

 痛くもなかったし、気を取り直して部屋の中を歩き回り、壁にかかった絵を壁歩きで横移動しながら収納して行く。

 ……そして床に戻って目の前にはあのハイカットスニーカーがあるんだけど、流石に誰が履いてた靴か分かんないし、取りに戻ってくるかもしれないが、背に腹はかえられぬって言うもんね。
 どこが背中でどこがお腹なのか分かんないけど、せっかくあるんだしもらっておきましょう。

 鏡も収納して、殺風景な石造りの部屋になっちゃったな、ん~と、後は祭壇だけか。

 よく見ると、石畳にはコケが生えていたり、小石なんかも落ちてたりするからとりあえず片っ端から食べちゃって、ぐるりと部屋中綺麗にした後、部屋の中央に行く。

 んと、祭壇に触れながら収納したんだけどさ、祭壇があった場所には……。