夕方の混雑した冒険者ギルド。
イルは何もかもが目新しそうで、キョロキョロとあたりを見て楽しそうに受け付けの列に並んでいる。
だが俺と茜ちゃんは、また別の事に気を取られている。
『友里くんも異世界ファンタジー小説を読んでいたのですね。では今のこの状態はかの有名なテンプレが起こる可能性が高いとワクワクしている私の思いが分かるはず!』
『もちろんだ茜ちゃん。何を隠そうゲームや漫画に続き、高い関心を俺は異世界ファンタジー小説に向け、少ないお小遣いをやりくりしながら購入を続けていた俺にもこの状態は非常に好ましいシチュエーションだよ!』
『『ぬふふふふふふふふ』』
「おい! ガキども! お前らだ! 無視すんじゃねえ!」
『『来たぁぁぁぁぁぁ!』』
子供だけ。それも女の子だけに見えるパーティー。
冒険者ギルドなら場所をゆずれパターンか、ナンパ目的か、それともまだ見ぬパターンで絡んで来るのかと待っていた。
それはもう今か今かと、心待ちにして念話をしていた俺達。
そこへテンプレのごとく乱暴な言葉で話しかけられたのだ。
そんな声にも動じずあたりを楽しそうに見ているイルは放っておいて、待ってましたと振り向いたイルの頭の上の俺と茜ちゃん。
そこには小太りのおっちゃんがいた。
顔を真っ赤にして茜ちゃんの事を見下ろすように睨んでいるし、手にはお酒が入っているであろうカップだ。
「あ、あの、私達の事でしょうか?」
『ぷはっ、茜ちゃん、声がうわずってるし、口の端が上がってるよ、くはっ』
『だ、だって、あまりにも完璧なテンプレおじさんなんだもん……くふっ』
念話をしながらも、殴られるのは嫌なので練っていた作戦通り、物理防御のスキルをイルと茜ちゃんに、今かかっている物の上に重ねてかけた。
この物理防御のスキルは、体を完全に覆い、もう一枚全身タイツを着た感じになるんだけど、木の棒でおもいっきり叩いても、衝撃さえ来ない優れものでゴブリンに会ってから、常にかけるようにしたスキルだ。
それだと言うのに……。
「おう! ガキども、てめえらが並んでるのは依頼を受ける列だ! チラっと見てたんだがてめえらの依頼書は完了してるじゃねえか!」
……あれ? なんだか雲行きが……。
「完了報告はな、この時間はこっから向こうの列に並べ! 分かったかガキども!」
そう言いながら、俺達が並ぶ列の二つ隣の列を指差した……。
「ん? これここ駄目ですの?」
俺と茜ちゃんが小太りのおっちゃんの言葉に唖然としていると、イルがキョロキョロを止め、振り返って、依頼書をおっちゃんに見せるように頭の上でかかげながら、こてっと首を傾げた。
「その通りだ。ったくよ、買い取りのジジイも説明してやれってんだ。おら、早く並び直さねえと、どんどん遅くなるぞ」
「おお! ありがとございますの、アカネ、並び直しますの! あっちなのです!」
イルは依頼書を掲げた格好のまま、ペコリと頭を下げながらお礼を言うと、茜ちゃんの手を取り列を離れ、報告用と言われた二列横の列の最後尾に向けて歩きだした。
「はっ! お、おじさんありがとうございます!」
茜ちゃんは引っ張られ、おっちゃんが親切心で絡んできたことに気付き、引っ張られながらもお礼を言って、イルについていく。
俺も、声は出せる状況ではないが、心の中で『ありがとう』と言い、下げたように見えないだろうが頭も下げた。
場所をゆずれだと思っていたのに、実は『場所を間違えてるぞ』だったため、テンプレが不発に終わったんだけど、その後は何もなく、依頼完了の登録も終わった。
ちょっと残念だったのは否めない……。
結局薬草採取七回分の量があったそうで、受け付けのお姉さんに褒められて、ご機嫌のイルを連れて冒険者ギルドを後にした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
初日、ゴブリンに会ったイレギュラーはあったけれど、その後の数日は、同じ薬草採取を続けているけれど、そんなこともなく、買い取りのおじさんとも仲良くなり、小太りのおっちゃんとも、言葉は交わさないが、軽く手を上げて挨拶するまでになっていた。
そして十日が経ち、今日も薬草採取を請けようと冒険者ギルドに来たんだけど何やら朝から騒がしい。
なんだ? なにが――ヤバっ!
『二人ともギルドから出て! 金谷達がいる!』
『か、金谷君が! ヤ、ヤバいです! イルちゃん早くこちらへ!』
奴らはいつもの三人で、受け付けのところで騒いでいた。
イルの手を引き外に出てもらい、ギルドの建物と隣の雑貨屋との間にある路地に飛び込んでもらう。
「危なかった、イルは大丈夫だけど、茜ちゃんの事はすぐにバレて、何されるか分からない」
「はぁ~、怖かったです。今日は依頼を請けずに薬草だけ採取しておく? お金はまだ余裕あるし」
「どうしましたの? 悪者がいたのです?」
繋いでいる茜ちゃんの手を、凄く楽しそうにプラプラと揺らしながら聞いてきた。
「う~ん悪者と言いきれないけど、俺達ができればまだ会いたくない奴らなんだ。茜ちゃん、茜ちゃんの姿をこの世界の人っぽく変えようか、そうすればバレないはずだし」
「あっ、それならイルちゃんに依頼を請けてもらえるよね」
俺はみにょ~んと伸びて、イルの頭の上から茜ちゃんの肩に乗り移り、早速召喚の部屋から出た時のスキル、幻影を使い、イルと同じ髪の毛を銀髪に目を赤色にして、ヘアスタイルはボサボサ伸び放題だった俺の姿に。
「ほへ~! ユウリが格好良いのです! アカネがユウリになりましたの!」
「へ? わ、私が友里くんに? でも、この銀髪……まさか目は赤か銀、レアなら紫もありだよね!」
「落ち着け、イルに合わせて赤目にしたけど……うん。髪の毛と目の色を変えるだけでほぼ別人だよ。この後は俺が喋るから茜ちゃんは念話でお願いできる?」
「はい。そうだ、このまま友里くんも冒険者ギルドに登録しておけば、良くない? 金谷君達がギルドに来たっていう事は他のクラスメイトも――」
「おいそこのガキ、黒髪の女を見なかったか?」
声をかけてきたのは、ちょっと前に冒険者ギルドで騒いでいた金谷だった。
イルは何もかもが目新しそうで、キョロキョロとあたりを見て楽しそうに受け付けの列に並んでいる。
だが俺と茜ちゃんは、また別の事に気を取られている。
『友里くんも異世界ファンタジー小説を読んでいたのですね。では今のこの状態はかの有名なテンプレが起こる可能性が高いとワクワクしている私の思いが分かるはず!』
『もちろんだ茜ちゃん。何を隠そうゲームや漫画に続き、高い関心を俺は異世界ファンタジー小説に向け、少ないお小遣いをやりくりしながら購入を続けていた俺にもこの状態は非常に好ましいシチュエーションだよ!』
『『ぬふふふふふふふふ』』
「おい! ガキども! お前らだ! 無視すんじゃねえ!」
『『来たぁぁぁぁぁぁ!』』
子供だけ。それも女の子だけに見えるパーティー。
冒険者ギルドなら場所をゆずれパターンか、ナンパ目的か、それともまだ見ぬパターンで絡んで来るのかと待っていた。
それはもう今か今かと、心待ちにして念話をしていた俺達。
そこへテンプレのごとく乱暴な言葉で話しかけられたのだ。
そんな声にも動じずあたりを楽しそうに見ているイルは放っておいて、待ってましたと振り向いたイルの頭の上の俺と茜ちゃん。
そこには小太りのおっちゃんがいた。
顔を真っ赤にして茜ちゃんの事を見下ろすように睨んでいるし、手にはお酒が入っているであろうカップだ。
「あ、あの、私達の事でしょうか?」
『ぷはっ、茜ちゃん、声がうわずってるし、口の端が上がってるよ、くはっ』
『だ、だって、あまりにも完璧なテンプレおじさんなんだもん……くふっ』
念話をしながらも、殴られるのは嫌なので練っていた作戦通り、物理防御のスキルをイルと茜ちゃんに、今かかっている物の上に重ねてかけた。
この物理防御のスキルは、体を完全に覆い、もう一枚全身タイツを着た感じになるんだけど、木の棒でおもいっきり叩いても、衝撃さえ来ない優れものでゴブリンに会ってから、常にかけるようにしたスキルだ。
それだと言うのに……。
「おう! ガキども、てめえらが並んでるのは依頼を受ける列だ! チラっと見てたんだがてめえらの依頼書は完了してるじゃねえか!」
……あれ? なんだか雲行きが……。
「完了報告はな、この時間はこっから向こうの列に並べ! 分かったかガキども!」
そう言いながら、俺達が並ぶ列の二つ隣の列を指差した……。
「ん? これここ駄目ですの?」
俺と茜ちゃんが小太りのおっちゃんの言葉に唖然としていると、イルがキョロキョロを止め、振り返って、依頼書をおっちゃんに見せるように頭の上でかかげながら、こてっと首を傾げた。
「その通りだ。ったくよ、買い取りのジジイも説明してやれってんだ。おら、早く並び直さねえと、どんどん遅くなるぞ」
「おお! ありがとございますの、アカネ、並び直しますの! あっちなのです!」
イルは依頼書を掲げた格好のまま、ペコリと頭を下げながらお礼を言うと、茜ちゃんの手を取り列を離れ、報告用と言われた二列横の列の最後尾に向けて歩きだした。
「はっ! お、おじさんありがとうございます!」
茜ちゃんは引っ張られ、おっちゃんが親切心で絡んできたことに気付き、引っ張られながらもお礼を言って、イルについていく。
俺も、声は出せる状況ではないが、心の中で『ありがとう』と言い、下げたように見えないだろうが頭も下げた。
場所をゆずれだと思っていたのに、実は『場所を間違えてるぞ』だったため、テンプレが不発に終わったんだけど、その後は何もなく、依頼完了の登録も終わった。
ちょっと残念だったのは否めない……。
結局薬草採取七回分の量があったそうで、受け付けのお姉さんに褒められて、ご機嫌のイルを連れて冒険者ギルドを後にした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
初日、ゴブリンに会ったイレギュラーはあったけれど、その後の数日は、同じ薬草採取を続けているけれど、そんなこともなく、買い取りのおじさんとも仲良くなり、小太りのおっちゃんとも、言葉は交わさないが、軽く手を上げて挨拶するまでになっていた。
そして十日が経ち、今日も薬草採取を請けようと冒険者ギルドに来たんだけど何やら朝から騒がしい。
なんだ? なにが――ヤバっ!
『二人ともギルドから出て! 金谷達がいる!』
『か、金谷君が! ヤ、ヤバいです! イルちゃん早くこちらへ!』
奴らはいつもの三人で、受け付けのところで騒いでいた。
イルの手を引き外に出てもらい、ギルドの建物と隣の雑貨屋との間にある路地に飛び込んでもらう。
「危なかった、イルは大丈夫だけど、茜ちゃんの事はすぐにバレて、何されるか分からない」
「はぁ~、怖かったです。今日は依頼を請けずに薬草だけ採取しておく? お金はまだ余裕あるし」
「どうしましたの? 悪者がいたのです?」
繋いでいる茜ちゃんの手を、凄く楽しそうにプラプラと揺らしながら聞いてきた。
「う~ん悪者と言いきれないけど、俺達ができればまだ会いたくない奴らなんだ。茜ちゃん、茜ちゃんの姿をこの世界の人っぽく変えようか、そうすればバレないはずだし」
「あっ、それならイルちゃんに依頼を請けてもらえるよね」
俺はみにょ~んと伸びて、イルの頭の上から茜ちゃんの肩に乗り移り、早速召喚の部屋から出た時のスキル、幻影を使い、イルと同じ髪の毛を銀髪に目を赤色にして、ヘアスタイルはボサボサ伸び放題だった俺の姿に。
「ほへ~! ユウリが格好良いのです! アカネがユウリになりましたの!」
「へ? わ、私が友里くんに? でも、この銀髪……まさか目は赤か銀、レアなら紫もありだよね!」
「落ち着け、イルに合わせて赤目にしたけど……うん。髪の毛と目の色を変えるだけでほぼ別人だよ。この後は俺が喋るから茜ちゃんは念話でお願いできる?」
「はい。そうだ、このまま友里くんも冒険者ギルドに登録しておけば、良くない? 金谷君達がギルドに来たっていう事は他のクラスメイトも――」
「おいそこのガキ、黒髪の女を見なかったか?」
声をかけてきたのは、ちょっと前に冒険者ギルドで騒いでいた金谷だった。