あー! えとえと何か――攻撃魔法は!

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 魔法の才能 (測定不能)

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 役に立たねえですやん!

 魔法の名前くらい書いておいて欲しいっすよ!

 だぁぁぁぁー! ロリっ子ぉぉぉおー!

 念話で呼べど返事は無く、手詰まりだ。

「こうなったら――ファイアアロー! ウインドカッター! アースバレット! ウォーターランス! ライトニードル! ダークバインド! 後は――はれ?」

 俺がやけくそで唱えた呪文は炎でできた矢。

 透明だけど、三日月形をしたもの。

 鋭く尖ったひし形の石。

 光を浴びてキラキラした水っぽい槍。

 数えきれないほどの金色に輝く針の群れ。

 そして追いかけてきた緑色の小人の足元から伸びた真っ黒な触手になった。

 触手が迫ってきた奴を絡めとり、動きを止めたところへ矢、三日月、石、槍、そして針の群れが一斉に飛んで行き、全てが命中したと思ったら――爆発した。

 ドゴーンと、耳があれば痛かっただろうなと思えるほどの音が、空気を震わせ俺の体をプルプルと震わせる。

 そしてもちろん、横を走ってた茜ちゃんと必死に走ってたイルが、爆風な背中を押されて地面に飛ばされた。

「きゃーですのー!」

「ひゃぁぁーっ!」

「ぬおっ!」

 俺もイルの頭に乗っていたから漏れること無く地面に投げ出されたわけだが、ひとまずの危険は退けられ――てねえ!

 転がりはしたが上手くお座りした形で止まったイルの頭の上に伸びた体を戻しす。

 戻った頭の上から見えた景色には、終わったと思ってた緑の野郎一匹がはぐれていただけで、少し離れたところにまだ十匹はいた。

「ほえぇぇ! まだたくさんいますの! ユウリ!」

「あたた、どうひたの――へ? ひにゃぁぁー! なにあれぇぇ!」

「くっ、任せておけ! ウインドカッター! ウインドカッター! ウインドカッター! ――!」

 まだ遠く、五十メートルは離れたところにいる緑のやろうに向けて一番飛びそうなウインドカッターを連射する。

 シュンと風切り音も微かにしか聞こえず、十匹がいる方向へまっすぐ飛び、次々に命中していく。

 二十発以上は飛ばしたと思うんだが、十匹共に地面に崩れ落ち、スネあたりまである草を押し潰して倒れたのを確認した。

「倒しきったか……な?」

「ユウリすごい魔法ですの! ゴブリンがあっという間なのです!」

 ぴょんと立ち上がり、ピョンピョン飛んで喜ぶイル。

「ううっ、グロはできれば遠慮したかったのですが、思ったより精神耐性が働いているようで、特になんともないのが複雑な気分です」

 イルとは違い、よっこいしょと立ち上がった茜ちゃんは、遠くに見えているバラバラになった緑のやろうを嫌そうに見てそう言った。

「それな。……はぁ、でもなんとか初エンカウントは無事に乗りこえられたね。ってかゴブリンか、リアルで見ると……ほんと悪そうな顔してたよね」

「うんうん、ラノベでどんな姿なのか想像してたけど、まさに背が低くて緑色の肌……それにえっちなことされちゃったり……ごにょごにょ……」

 いやいや、茜ちゃん、どんなラノベ読んでたんだよ。
 俺達はまだ読んじゃ駄目なヤツなんじゃ……でも、男性用のラノベより、女性用の方がえっちだと噂で聞いたことが……貸して、じゃなくて!

「あ、茜ちゃん、とりあえずあのゴブリンは持っていった方が良いよね、たぶん冒険者ギルドで買い取りしてくれるはずだし」

「そ、そうですよ! 私達はこれから冒険者をして生活しなくちゃ……うっ、大丈夫でしょうか、役立たずだから脱出できたのに、こんな力があると分かれば連れ戻されてしまうかも」

「そうか、それがあったよね……よし、俺の収納は沢山入るから貯めておいて、怪しまれないようにちょっとずつ出していこう。それまでは、薬草の採取でクラスのみんなを奴隷から解放する事に集中だ」

 胸の前で手を組み、うんと頷いた茜ちゃん。

 それを大人しく聞いていたイルは茜ちゃんの手を握り、引き始めた。

「それじゃあユウリが倒したゴブリンを見に行きますの! 茜ちゃん、あっちなのです!」

 ゴブリンの近くまで行ってから気が付いた事。

 最初の爆発したゴブリンは跡形も無くなっていたんだけど、ウインドカッターで倒したゴブリンは、上半身が自主規制(ピー)な事になっていました。

 首に腕に……切れてないところがないくらい。

 それと、有名なゴブリンの腰布――っ!

「きゃぁぁぁぁぁー!」

「び、びっくりしますの! 茜ちゃん、どうしましたの?」

 いやまあ魔物が服を来てる方がおかしい気もしないでもないけどさ、あの腰布はラノベ作家先生の優しさでできていた事を実感しました。

 イルに地面へ下ろしてもらい、さっさと収納してしまう事にした。

 収納を続ける俺の背後で『ううっ、昔見た友里くんのより小さかったけど、すごいの見ちゃったよ……』『変なの付いてますの! アカネ、ほらほらこれ見るですよ!』とか……いつ見られた?

 それにイル……どこで拾って来たか分からないけど、木の枝でつつかないでね……。

 ゴブリンの収納を終え、今度は周囲の警戒を怠らないように、薬草の採取を再開した。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

「初めての依頼で薬草いっぱい採ってきましたの! 買って欲しいのです!」

 ドサッと冒険者ギルドの買い取り場に、収納が珍しく、持っていると目立つかもしれないと買っておいた薬草満載の背負い籠を下ろした。

「嬢ちゃん達……見たことないな、初めてか? それにしては大量だし、頑張ってきたようだな。仕分けするから待ってくれ」

 買い取り場にいたおじさんは、小さめのリュックほどの背負い籠から種類別に丁寧な手付きでカウンターに並べていく。

「ほう。全て薬草と毒消しか、嬢ちゃん達はちゃんと薬草がどんなものかを勉強したんだな、偉いぞ。それに丁寧に採取をしてあるようだ」

 そう言いながら残りも籠から出して、全て出しきると、薬草の数を数えて依頼の紙に本数を書いて、その場で買い取り分の大銅貨を八枚と銅貨九枚を、両手を掲げるように待つイルの手に乗せてくれた。

「買い取りは終わりだ、後は受け付けにそれを持っていくんだ。そうすれば依頼完了となる」

「ほほー! お金いっぱいなのですよ! ありがとございましたの! また来ますの!」

 そう言い俺を頭に乗せたイルは茜ちゃんの手を握るため、持ってたお金を半分茜ちゃんに渡すと、空いた手で手を繋ぎ、受け付けに歩きだした。