ハロウィンとは、なぜあるのか。
私にはいまいち分からない。

クリスマスとか、バレンタインとかはまだイベントとしてはっきりしてるけど、ハロウィンってほんとにお菓子交換して終わり。
あとはせいぜい街がデコレーションされるくらいだ。
ほんと、なにがしたいんだろう。

こんなこと言ってて、キリスト教徒の方には申し訳ない。
多分そういう人には大切なんでしょうけど、こっちからしたら正直めんどくさいイベントでしかない。
学校の友達のみんなの分のお菓子を用意しなくちゃいけないし、交換したあとのもらった大量のお菓子を食べなくちゃいけない。
甘党ではあるけど、手作りで日持ちの効かないものを大量に渡されたって、一気に食べるしかないから大変。

みんなも思ってるはずなのに、なぜだれも言い出さないんだろう。
……まあかくゆう私も女子の皆さんに「やめようよ」なんてとてもいえない。そんなこと言ったらじゃああなたはやらなくていいよ、って仲間はずれにされて終わるだけだ。
それって結構、社会的に終わり。絶対無理。
だから私は、今年も大人しくお菓子を作る。

スクールカーストを構成するものの一部として
ハロウィンやバレンタインのお菓子のクオリティはかなり大切になってくる。
作ったものがおしゃれであればおしゃれであるだけ人気者になるし、地味であれば地味であるだけ冷められる。市販品なんて論外!
はーだるすぎる。

チョコだとバレンタインとおなじになっちゃう。
あとクッキーとカップケーキはお手軽だしデコりやすいから友達と被る可能性が高い。
んー、パウンドケーキもありがち?
でも基本的に焼き菓子じゃないと受け渡しがしにくいのでどうしてもマンネリしがち。
んーー、パンプキンケーキでいっか。
真四角の型に入れて上からナッツを敷き詰めて、焼き上がったら細切りにすれば簡単だけどちょっとおしゃれに見えるパンプキンケーキの完成。
量産もしやすくてコスパ抜群!

ちなみに言っとくと
うちの学校のハロウィンは女子同士だけ。男子に渡すとなると一大事で、女子みんなでキャーキャー騒ぎ立てて背中を押す。大抵失敗する。
男子もうちの女子達がガード固いのはわかりきってるので今更ねだってきたりしない。
なのに……

ハロウィン当日。
今年はたまたま31日が平日だったから当日の交換だ。
お互い周りをチラチラ見ながら自分のレベルを平均レベルと比べ、普通なら普通でホッとして出し、ちょっといいクオリティなら少し自慢げに出す。
私は、まあ、割と?だけど特にそんなに争う気ない。
クラスで1番、いや学年で1番のキラキラ女子、花恋(かれん)はやっぱりすごかった…
一つ一つ顔が書いてある可愛らしいパンプキンミニシュー。一人5個だから…学年の女子で何個作ったの!?そして何回顔を書いたの!?
一つ一つ微妙に顔のバランスが違って愛嬌抜群。とっても可愛い…。

周りのみんなも花恋のミニシューにほぅとため息をつく。
可愛い、すごい、羨ましい、そんな感嘆と羨望が入り混じったため息。
そんな中でも得意げにマウントを取らない花恋はほんとに二流女子とは違う…。
「ねぇねぇっ、花恋は誰か男子にあげないの?」
あの子は…あぁそうだ、(ゆき)ちゃんだ。
「えー!いやいやいやいないって!そんなあげる人!」
「あっ、絶対いるやつ!え〜だれだれだれ!?」
「うそ!花恋好きな人いるの!?」
「えっ!教えてよ〜水臭い!」
「い、いないってば…」
「「「きゃー反応が乙女〜〜!!」」」

きーーんこーーんかーーんこーーん

学校のチャイムは無常にもこのタイミングで鳴る。
私も結構気になってたんだけど…っ!
…まぁ、仕方ない。
「よーし学活するぞ〜」
間抜けでいかにもダメ男でちょっとなんか知らないけどイケメンなうちの担任が教室に入ってきた。
地味に、この人は人気がある。私は一ミリだって興味ないけど。

****************

放課後、運悪く日直だった私は日誌を書き上げて職員室に出しに行った。
教室に帰る帰り道、顔の斜め後ろ、耳元から急に声がした。
「た〜〜まちゃん!」
「ひゃっ!!!もう!やめてください先輩!」

バスケ部キャプテンの先輩はお兄ちゃんの後輩らしく、よく絡んでくるのだけども毎回驚かせてくるからたまったもんじゃない。

「トリックオアトリート!」
「はい?」
「お菓子ちょうだい?いたずらするよ?」
「もうされたのであげませーん。」
「へー?ってことはあるはあるんだ?」
「女子で配った時のあまりです。」
「ちょうだい?」
「嫌です!なんで先輩にあげなきゃいけないんですか!」
「えー。俺が欲しいから。」

そしてこのマイペース人間が私は苦手だ。
なんだか自分のリズムをどんどん崩しにくる。

「たまちゃん、いいでしょ?」
「その呼び方直してくれたらあげます。」
「え〜だってたまちゃん猫っぽいし。」
「じゃああげません。」
「わかった!直すから!いいでしょ?」
「……はぁ、しょうがないからあげます。」
「マジで!?やったぁ!」

私はほんとにこのたまちゃん呼びが嫌だった。
昔おさげだった時に友達の丸メガネをつけられて某キャラクターのたまちゃんと掛けられてしばらく呼ばれてからなんとなく呼ばれるたびに地味子と言われているような気分になって嫌だ。

しょうがなくカバンから一つ包みを取り出す。はい、と手渡すと先輩は目をキラキラさせてそれを受け取った。

「これ手作りなの!?」
「はい。」
「やったぁ!これで部活頑張れる!ありがと、日菜。」

文字通り飛び上がって彼は廊下の端へ走り去っていった。
おそらく部活に戻ったんだろう。そりゃそうだ。キャプテンがこんなところでウロウロしてていいわけない。

「………っ。」

先輩の姿が見えなくなった後。時差で、それは来た。
思わず壁に背をつけしゃがみ込む。糸が切れたように体が動かない。

日菜、だって。
初めて言われた。
そりゃ呼び方変えるとは言ったけど
まさか呼び捨てなんて思わなかった。

ありがと、と笑う先輩の笑顔が可愛いとか、そんなこと思うなんて思わなかった。

「………やめてくださいよ先輩…。」

先輩の笑顔が、日菜、と呼ばれる声が、頭から離れない。
………お菓子、残ってて良かった。

「って言うかお菓子ちゃんと、あげたのに……」

どうやら先輩は、私にいたずらの魔法をかけていったらしい。
私を恋に落とさせる魔法を。