デカいスズメバチのこんがりと焼けた脚を口に咥えながら、俺は壁に向かっていた。半分炭になった棒切れを持ち、視聴者に分かりやすく大きく文字を書いていく。聞きたいこと、言いたいことは沢山あるが、伝わらなければ意味がない。なるべく簡潔に。

 壁いっぱいに文字を書き終えた後、俺は配信を始めた。

「俺は配信者だ! お前達に支えられている! 予想は裏切るが、期待には応えたい! だからこそ、大方針を決めたいと思う!!」

 当然、カメラの向こうの視聴者には聞こえていない。だが、これは俺の決意表明なのだ。口にせずにはいられない。

「先ず最初に、俺は現代の日本に戻るべきか、しばらくこの未知なる日本に残り冒険を続けるべきか! お前達の意見を聞きたい!」

 そう言って俺は壁の文字を指す。そこには【戻る?】【残る?】の二択が書かれてある。視聴者にちゃんと意図が伝わっただろうか? 
 
 スマホを見ると勢いよくコメントが流れている。その大半が俺に【残る】ことを求めている。それはそうだ。俺以外は、この日本? で配信出来る人間はいない。現代人はお手軽な娯楽に飢えているのだ。

「では次だ! 俺はこの島? に残るべきか!? それともここを離れて東京を目指すべきか!? お前達はどちらが気になる?」

 現代で俺が配信していたのは東京湾に浮かぶ無人島だ。もし、場所はそのままタイムスリップしたのなら、ここから東京に行くことはそれ程難しくない筈だ。

 コメント欄の多くは【東京】を求めていた。【この島】でサバイバルを! という意見もあったが、それは別に俺じゃなくてもいい。未来の東京がどうなっているのか? それを伝えられるのは俺だけだ。

「よし! お前達が何を見たいかは分かった! では最後のアンケートだ!! 俺はこのクソデカいスズメバチから逃げたまま、東京に向かうべきか!? それとも奴等の巣を襲撃しハチノコを食うべきか!? どっちだ!」

 壁には【蜂から逃げる?】【ハチノコ食べる?】の二択が書いてある。さぁ、お前達はどうして欲しい?

 コメント:いやいや、無理っしょ? 死ぬよ?
 コメント:流石に逃げるべき。自殺配信なんて見たくない
 コメント:でも、ハチノコ美味いんやろなぁ
 コメント:ハルクルーメンでも刺されたら死ぬから
 コメント:自分、集合体恐怖症なのでパスで
 コメント:いけるいけるいける!
 コメント:お前ら、ルーメンはやる男よ
 コメント:また褌一丁で襲撃するんやろなぁ
 コメント:絶対みる!
 コメント:楽しみ過ぎるだろ!!
 コメント:うおおおおおおー!!今日から寝ない!!

 反応は半々か。なるほど。しかしな、俺はこんなデカいスズメバチの巣を見逃すほど人間出来てないんだよ!

 ──バンッ! と壁を叩き、【?】の字を消す。そこには【ハチノコ食べる】の文字。

「俺は、ハチノコを食べるぞオオオオオオオ!!」

 カメラの向こうから何万もの視聴者の雄叫びが聞こえた気がした。俺達は時空を超えて繋がっている……。待っていろよ、ハチノコ。絶対に食ってやるからな!!