俺が未来から戻って来た目的は二つある。一つは勿論、母親に会うため。もう一つはこの地球と異世界が融合するのを防ぐためだ。

 ここ最近有名になった配信者に手品師アダチという男がいる。俺がちょうど未来にいった後から火がつき始め、今ではトップ配信者の一人だ。

 未来からもスマホがあればその配信を観ることが出来た。ニコはアダチの手品を面白がって、暇な時はその配信を観ていた。

 多摩湖湖畔でパンダモンドに魔道具の修理をしている時なんてのは、まさに暇でよく観ていた。そしてその画面をたまたま見たパンダモンドが言ったのだ。「こいつ、魔法を使っているぞ。というか、コイツ、俺達の世界のやつだ」と。

 パンダモンドの話によると、アダチの見た目はハーフエルフそのものだという。耳は尖っていないものの、白磁のような肌に青い瞳、銀糸の様な髪は確かに美男子だ。まぁ、お化粧したアイドルと俺には見分けがつかなかったが。

 ただ、見た目で「コイツ、俺達の世界のやつだ」とパンダモンドは判断したわけじゃない。手品師アダチが配信の中で行った手品を見て言ったのだ。

 その手品はトランプに穴を開けずに五百円玉を通すというもの。

 手品師アダチはその瞳を怪しく輝かせると、見事に五百円玉をトランプの向こう側に通した。それを見てパンダモンドは声を上げたのだ。「融合の魔法を使いやがった」と。

【融合】

 そしてアダチという名前。俺の中でこの二つの要素が繋がった。思い浮かべるのは勿論、新宿都庁跡でバッタ人間を量産していたマッドサイエンティストのアダチだ。

 手品師アダチと未来のアダチが同一人物だとは思わない。見た目が全然違う。しかし、何らかの繋がりがあるのは間違いないだろう。

 俺は母親との面会の後、すぐに手品師アダチが所属するプロダクションに連絡した。「アダチとコラボしたい」と。

 返事はすぐ来た。それも手品師アダチ本人から。「一度お話ししましょう」と。


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「突然の連絡にも関わらず、場を設けてくれて感謝する」

「とんでもない。トップ配信者のルーメンさんからのお誘いですから。しかし、本当に戻ってこれたんですね。未来から」

 動画と変わらない美男子が優雅な仕草でワイングラスに口をつける。

 ここは都内にあるカフェ・バーのVIPルーム。手品師アダチが指定した場所だ。

「あぁ。エルフのアンスラに力を貸してもらって、戻ることが出来た」

 アダチの眉が「エルフ」という単語にぴくりと反応した。ハーフエルフからすると、エルフは意識してしまう存在なのかもしれない。

「腹の探り合いは時間の無駄だと思わないか? ハーフエルフのアダチよ」

 俺の言葉にアダチは身構える。

「そうですね。確かにルーメンさんに隠す意味もないでしょう。お察しの通り、私は異世界からの転移者です」

 観念したようにアダチは言った。

「今から三年ぐらい前でしょうか。私はあなた達がいう異世界からこの地球に転移してきました。原因はわかっていません」

 何かを思い出すように、遠い目をしている。

「最初は言葉も分からず、知り合いもおらず大変でしたよ。たまたま今のプロダクションの社長に拾ってもらわなければ、犯罪者になるか、のたれ死んでいたでしょう」

「イケメンで良かったな。しかし、昔話はまた今度聞かせてくれ。俺は未来の話がしたい」

「未来……ですか?」

「あぁ。そうだ。2032年に地球と異世界は融合する。その原因がアダチの使う【融合】の魔法ではないかと睨んでいる」

「融合の魔法……。確かに私は使えますけど、星と星をくっつけるほどの力は私にはない」

「地球と異世界の融合には二つの段階がある。第一段階は富士山の噴火と同時に巻き起こった魔素の拡散、そして第二段階が地球と異世界の融合だ。これは未来にいたドワーフの考えだが、第一段階で地中から噴き上がった魔素を利用して星と星をくっつけるほどの【融合】を発動させたのではないか?」

「……しかし、私には【融合】を使う理由がない」

「本当にそうか? 故郷の星に帰りたいのではないのか?」

「……」

「今はまだ、答えを出さなくていい。しかし、故郷に帰りたいというなら、確実な手がある。俺と一緒に未来へ行って、地球と異世界を繋ぐ穴を通って帰ればいい」

「そんなことが──」

「出来る! 現に俺は帰って来ただろ? この時代に。時間のズレはあるが、エルフの血を引くアダチには大した問題ではない筈だ」

「……考えさせてください」

 神妙な面持ちのアダチを残し、俺はVIPルームを後にした。