「ルーメン! これブワーってなる! ブワーって!! 凄い!!」

 廃墟となった美容室からニコが見つけてきたものは、業務用のドライヤーだった。保存状態がよかったのか、それとも元の作りが良かったのか。俺のスマホを電源として見事に動いている。

「ふーごーひぃぃぃ」

「喉が乾くぞ。やめておけ」

 自分の口に向かってドライヤーの風を当てるニコは楽しそうだ。

「他には無かったのか?」

「なあぁはっはー」

 無かったか。

「ふぅ。ルーメン、カデンって面白いな!」

「初めてだと面白いだろうな。俺のいた時代では家電は当たり前だったからニコみたいな感動はなかったけれど」

「ルーメンのいた時代に行ってみたい! 行けるかな?」

 ニコの言葉に心臓が跳ねた。配信者の使命としてこの世界のことを伝える! と自分に言い聞かせていたが、果たして俺の人生はそれだけで良いのか? 急に不安になる。

「ルーメン。顔が変になったぞ!」

「少し、考え事だ」

「どしたん? 話聞こうか?」

「ニコ、その言い回しをどこで覚えた?」

「コメント欄!!」

 コメント欄の奴等、余計なことを。最近はニコが勝手に単独で配信して、コメント欄がおじさん構文で溢れることがある。新たな視聴者の獲得と割り切って放置していたが、そろそろ引き締める時期かもしれない。ニコの単独配信は有料メンバー限定コンテンツにするか……。

「ルーメン、顔が戻った!」

「……そうか」

「その顔の方がいいよ! 悪巧みしているいつもの顔がいい」

「悪巧みじゃない! ほら、そろそろ行くぞ」

「はーい!」

 本来の目的──アンスラのお使い──を忘れて廃墟で宝探しをしていたが、そろそろ進まねばならない。

 百年以上放置されてまともに動く電化製品はほとんどなく、戦利品はニコが見つけた業務用ドライヤーと俺が見つけた卓上LEDライトだけだった。

 卓上LEDライトは夜の配信時に非常に役に立つ。今までは毎回焚き火の準備で大変だったが、スマホにLEDライトを当てるだけで照明を確保できるのはありがたい。

「まだ遠いの? タマコ」

「あぁ、まだまだだ。多摩湖は。ひたすら線路に沿って歩くぞ」

「へいへーい」

 宝探しが楽しかったのか、少し不満そうにしながらもニコは歩き始めた。

 まだ田無駅跡だ。先は長い。


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「ルーメン! キモイのがたくさんいる!」

 雨上がりの線路沿いに大量に湧いていたのはモンスター化したナメクジだった。

「ルーメン、スマホ貸して!」

 何をするつもりなのか? ニコが俺のズボンのポケットからスマホを奪い取り──。

「カデンの力だ!!」

 ニコはお気に入りの業務用ドライヤーを構え、二十センチ以上あるナメクジに熱風を浴びせる。ナメクジは苦しそうにその身を捩る。

「ターボだあぁぁー!!」

 ドライヤーを最大出力にするとナメクジはみるみる縮み、小さくカラカラになって動かない。

「勝ったぞー!!」

 ニコがドライヤーを高く上げて勝利を宣言する。その様子にたくさんいたナメクジ達が恐れをなして逃げていく。

「待て! 逃げるな!!」

 手当たり次第に熱風を浴びせると、ナメクジは面白いように転がる。そして、悲鳴を上げ始めた。ナメクジが声を……。こいつら、本当にナメクジか? 何か違う気がするぞ……。

「どうだ、ルーメン! ニコ様にかかれば気持ちの悪いモンスターだってイチコロだぞ!」

「あぁ、そうだな」

 妙な胸騒ぎがする。落ち着かない。身体が揺れるような感覚。いや……実際に揺れている。

「ルーメン?」

「ニコ、何かくるぞ」

 線路が激しく揺れる。そしてやってきたのは電車と同じようなサイズのナメクジのモンスターだった。