「なるほど。おんし、時滑りをしたのか」
アンスラはアクションカメラのレンズを覗き込みながら言う。スマホを見ると、ルーメンチャンネルのコメント欄はずっとお祭り騒ぎだ。様々な言語での書き込みがとめどなく流れている。
「そんで、こっちの娘は人間とオーガの混血とな」
「うん!」
緑の家に通された俺達は、外から見るよりずっと広い室内で寛いでいた。
「ヘンテコな二人組があったもんじゃのう」
カメラをテーブルに置いて面白そうに言う。
「アンスラは何でここに一人でいるんだ? あと、水着配信のリクエストが大量にきている。問題ないよな?」
「ルーメンよ。質問と要望は分けんか」
「ならば、質問には答えなくていい」
案内人がため息をつく。
「……あのー、ルーメンさん。アンスラさんはこの森に空いてる穴を抑えてくれているんです。あまり失礼なことは控えてください」
「まぁよい。ワシも退屈じゃからな。これぐらいで怒ったりはせん。ただ、事情は説明しておいた方がええじゃろ」
そう言ってアンスラが姿勢を正した。
「ルーメンよ。この地球にはモンスターがおるじゃろ? そいつらはどうやって来ると思う? おんしらの言う異世界から」
「……知らん」
「この地球と異世界は管みたいなもんで繋がっとるのじゃ。こいつらは穴と呼んどるがな」
アンスラが案内人を見ると、コクリと頷いた。
「その穴を放っておいたらモンスターは際限なくこの地球にやって来る。何せこっちの生き物は弱いからな。なんぼでも殺して食える。それに、ある程度知性のあるモンスター達にとって、暴力は快楽なんじゃ」
今まで遭遇したモンスター達のことを振り返る。オークにオーガ達。奴等は確かにそうだったかも知れない。
「しかし、異世界人からしたら好都合じゃないのか? モンスターが地球に行った方が」
「勿論、そんな風に考える奴等もおる。そやけど、全員じゃない。申し訳なく思う者もおる」
「アンスラさんのように」
案内人の男が付け加えた。
「まぁ、そういうことじゃ。ワシは穴に結界を張っておるんじゃ。あんまり目の細かい結界じゃないから、ちっこい奴等はやって来るがの」
「それで充分ですよ。小型のモンスターなら我々でも対処出来ますから」
なるほど。アンスラがこの辺りで慕われている理由はわかった。今でもギリギリの中野集落だ。これ以上強力なモンスターが現れれば袴田一人では持たないだろう。
「この森以外にも異世界と繋がった穴はあるのか?」
「至る所にあるぞ。結界で封ぜられた穴もあれば野放しの穴もある。一番有名なのはオンシらも知っとるだろ。富士山じゃ。あそこの穴はでっかいからな。たまにとんでもない大物も抜けて来るぞ」
富士山……。この時代の人々にとって日本の最高峰は世界異変の象徴となっている。富士山から異世界との融合が始まったと。
「事情はわかった。それで水着配信だが……」
「かっかっかっ! ルーメンは本当に懲りない男じゃな。ええじゃろ。オンシがワシの頼みを聞いてくれたら、ワシは水着でも素っ裸でもなってやるぞ」
──バチンッ! と背中が叩かれる。隣を見ると眉間に皺を寄せたニコがいる。
「ニコ。これは視聴者の願いなんだ。俺は配信者。視聴者を喜ばせなければならない。俺がアンスラの水着姿を見たいわけじゃない!」
「本当か!?」
「本当だ!!」
肩を持って真顔で答えると、ニコは仕方なく黙った。よし。まだまだ子供だな……。
「ワシはこの森から動けんでな。ちーとばかしお使いに行ってくれんか?」
そう言って微笑むアンスラの顔は美しく妖しいものだった。
アンスラはアクションカメラのレンズを覗き込みながら言う。スマホを見ると、ルーメンチャンネルのコメント欄はずっとお祭り騒ぎだ。様々な言語での書き込みがとめどなく流れている。
「そんで、こっちの娘は人間とオーガの混血とな」
「うん!」
緑の家に通された俺達は、外から見るよりずっと広い室内で寛いでいた。
「ヘンテコな二人組があったもんじゃのう」
カメラをテーブルに置いて面白そうに言う。
「アンスラは何でここに一人でいるんだ? あと、水着配信のリクエストが大量にきている。問題ないよな?」
「ルーメンよ。質問と要望は分けんか」
「ならば、質問には答えなくていい」
案内人がため息をつく。
「……あのー、ルーメンさん。アンスラさんはこの森に空いてる穴を抑えてくれているんです。あまり失礼なことは控えてください」
「まぁよい。ワシも退屈じゃからな。これぐらいで怒ったりはせん。ただ、事情は説明しておいた方がええじゃろ」
そう言ってアンスラが姿勢を正した。
「ルーメンよ。この地球にはモンスターがおるじゃろ? そいつらはどうやって来ると思う? おんしらの言う異世界から」
「……知らん」
「この地球と異世界は管みたいなもんで繋がっとるのじゃ。こいつらは穴と呼んどるがな」
アンスラが案内人を見ると、コクリと頷いた。
「その穴を放っておいたらモンスターは際限なくこの地球にやって来る。何せこっちの生き物は弱いからな。なんぼでも殺して食える。それに、ある程度知性のあるモンスター達にとって、暴力は快楽なんじゃ」
今まで遭遇したモンスター達のことを振り返る。オークにオーガ達。奴等は確かにそうだったかも知れない。
「しかし、異世界人からしたら好都合じゃないのか? モンスターが地球に行った方が」
「勿論、そんな風に考える奴等もおる。そやけど、全員じゃない。申し訳なく思う者もおる」
「アンスラさんのように」
案内人の男が付け加えた。
「まぁ、そういうことじゃ。ワシは穴に結界を張っておるんじゃ。あんまり目の細かい結界じゃないから、ちっこい奴等はやって来るがの」
「それで充分ですよ。小型のモンスターなら我々でも対処出来ますから」
なるほど。アンスラがこの辺りで慕われている理由はわかった。今でもギリギリの中野集落だ。これ以上強力なモンスターが現れれば袴田一人では持たないだろう。
「この森以外にも異世界と繋がった穴はあるのか?」
「至る所にあるぞ。結界で封ぜられた穴もあれば野放しの穴もある。一番有名なのはオンシらも知っとるだろ。富士山じゃ。あそこの穴はでっかいからな。たまにとんでもない大物も抜けて来るぞ」
富士山……。この時代の人々にとって日本の最高峰は世界異変の象徴となっている。富士山から異世界との融合が始まったと。
「事情はわかった。それで水着配信だが……」
「かっかっかっ! ルーメンは本当に懲りない男じゃな。ええじゃろ。オンシがワシの頼みを聞いてくれたら、ワシは水着でも素っ裸でもなってやるぞ」
──バチンッ! と背中が叩かれる。隣を見ると眉間に皺を寄せたニコがいる。
「ニコ。これは視聴者の願いなんだ。俺は配信者。視聴者を喜ばせなければならない。俺がアンスラの水着姿を見たいわけじゃない!」
「本当か!?」
「本当だ!!」
肩を持って真顔で答えると、ニコは仕方なく黙った。よし。まだまだ子供だな……。
「ワシはこの森から動けんでな。ちーとばかしお使いに行ってくれんか?」
そう言って微笑むアンスラの顔は美しく妖しいものだった。