「なんか変!」
「あぁ。変だな」
たとえば一枚の葉っぱ。よく見ると葉脈とは別のスジが走っている。こんなスジは地球の植物にはない。森の入り口は普通だったが、奥に進むにつれて少しずつ何かがおかしい。
そもそも空気からして違う。マイナスイオンとかそんなものではない。身体に纏わりつくような何か。それが濃く空気に混ざっている。
「……あのー、平気ですか?」
案内役の男が控え目に口を開いた。
「平気? まぁ、違和感があるが……」
「あぁ、よかった。やっぱり能力者さんは魔素に耐性があるんですね。この森、魔素が濃いので普通の人間なら苦しくなったり、痒くなったりしますから」
男は厄介事を抱えずにすんでホッとしているようだ。
「お前は平気なのか!?」
ニコが無遠慮な疑問を投げかける。
「私は魔素に特別強い体質なんですよ。集落でこの森の深くに入って平気なのは袴田さんと私ぐらいです。この森は──」
──ガサッ。
下生えを掻き分けて奇妙な生き物が現れた。二十センチぐらいのゾウムシのような虫。ただ鼻に見える部分が三本に分かれていて、それぞれが忙しく動いている。
そっと近づき、ゾウムシ? をアップでアクションカメラに収める。
コメント:うげええ! きめええええ!!
コメント:なんだこの虫!? 新種!?
コメント:脚の数も多くない?
コメント:これは昆虫じゃないな。
コメント:目が赤い。モンスター化してる。
コメント:これ食べると鼻増える?
うっ……。食べるのやめようかな。鼻が増えるのは困る。
そんな逡巡をしている間に三鼻ゾウムシは意外な素早さで走り去ってしまった。コメント欄には落胆の声が溢れているが、俺は少しホッとしている。
「……地球の虫じゃない?」
「ええ。そうでしょうね。この森は異世界と繋がってるいるみたいなので」
植生の違いはそういうことか。という事は……。
「モンスターが出現するんじゃないのか?」
男はにっこりと笑う。
「それを抑えてくれているのが、エルフさんなんです。もうすぐ見えてきますよ」
そう言って男が指差した先には、大樹と完全に同化した緑の家があった。あそこにエロい身体をしたダークエルフが……。
逸る気持ちを抑え、一歩づつ緑の家に近く。
玄関まであと十歩。
無風だった森の中にビュンと一陣の風が吹く。思わず目を閉じるほどの強さだ。そして目を開けると──。
「かかか! なんじゃお前達。珍妙じゃのぅ」
──豪快に笑う女がいた。暴力的なまでの色香を振り撒く、褐色の肌をした美女。どんなサービス精神なのか、その身に張り付くワンピースは身体のラインを強調している。
「ちょっとポーズをとってもらっていいですか?」
「なんじゃ? なんじゃ?」
「これ、カメラなんで視線はここで」
「だからなんじゃと聞いておるのだ!?」
バチンッ! と頭が叩かれる。
「こらっ! ルーメン!! デレデレするな!!」
うん。ニコは無視だ。俺はカメラの向こうにいる何十、いや何百万人もの男性の夢を背負っている。
「ちょっと胸を寄せるように腕をクロスしてもらってもいいですか?」
「……ルーメンさん。流石にやり過ぎでは……。まだ挨拶もしてないのに」
案内役からも言葉が飛ぶ。しかし俺は配信者。こんなチャンスを逃すわけにはいかない。とはいえ挨拶は大事だ。
「おっと、自己紹介がまだだったな。俺はルーメン。近くの中野集落に世話になっているものだ」
「わぁはニコ! ルーメンの配偶者だ!!」
カメラに向かって胸を寄せていたダークエルフが姿勢を戻し、ニコに対抗するように胸を張る。
「ワシはアンスラ! この森を抑えるエルフじゃ!!」
一人だけテンションについて来れない案内人が困った顔をしながらポリポリと頭を掻いていた。
「あぁ。変だな」
たとえば一枚の葉っぱ。よく見ると葉脈とは別のスジが走っている。こんなスジは地球の植物にはない。森の入り口は普通だったが、奥に進むにつれて少しずつ何かがおかしい。
そもそも空気からして違う。マイナスイオンとかそんなものではない。身体に纏わりつくような何か。それが濃く空気に混ざっている。
「……あのー、平気ですか?」
案内役の男が控え目に口を開いた。
「平気? まぁ、違和感があるが……」
「あぁ、よかった。やっぱり能力者さんは魔素に耐性があるんですね。この森、魔素が濃いので普通の人間なら苦しくなったり、痒くなったりしますから」
男は厄介事を抱えずにすんでホッとしているようだ。
「お前は平気なのか!?」
ニコが無遠慮な疑問を投げかける。
「私は魔素に特別強い体質なんですよ。集落でこの森の深くに入って平気なのは袴田さんと私ぐらいです。この森は──」
──ガサッ。
下生えを掻き分けて奇妙な生き物が現れた。二十センチぐらいのゾウムシのような虫。ただ鼻に見える部分が三本に分かれていて、それぞれが忙しく動いている。
そっと近づき、ゾウムシ? をアップでアクションカメラに収める。
コメント:うげええ! きめええええ!!
コメント:なんだこの虫!? 新種!?
コメント:脚の数も多くない?
コメント:これは昆虫じゃないな。
コメント:目が赤い。モンスター化してる。
コメント:これ食べると鼻増える?
うっ……。食べるのやめようかな。鼻が増えるのは困る。
そんな逡巡をしている間に三鼻ゾウムシは意外な素早さで走り去ってしまった。コメント欄には落胆の声が溢れているが、俺は少しホッとしている。
「……地球の虫じゃない?」
「ええ。そうでしょうね。この森は異世界と繋がってるいるみたいなので」
植生の違いはそういうことか。という事は……。
「モンスターが出現するんじゃないのか?」
男はにっこりと笑う。
「それを抑えてくれているのが、エルフさんなんです。もうすぐ見えてきますよ」
そう言って男が指差した先には、大樹と完全に同化した緑の家があった。あそこにエロい身体をしたダークエルフが……。
逸る気持ちを抑え、一歩づつ緑の家に近く。
玄関まであと十歩。
無風だった森の中にビュンと一陣の風が吹く。思わず目を閉じるほどの強さだ。そして目を開けると──。
「かかか! なんじゃお前達。珍妙じゃのぅ」
──豪快に笑う女がいた。暴力的なまでの色香を振り撒く、褐色の肌をした美女。どんなサービス精神なのか、その身に張り付くワンピースは身体のラインを強調している。
「ちょっとポーズをとってもらっていいですか?」
「なんじゃ? なんじゃ?」
「これ、カメラなんで視線はここで」
「だからなんじゃと聞いておるのだ!?」
バチンッ! と頭が叩かれる。
「こらっ! ルーメン!! デレデレするな!!」
うん。ニコは無視だ。俺はカメラの向こうにいる何十、いや何百万人もの男性の夢を背負っている。
「ちょっと胸を寄せるように腕をクロスしてもらってもいいですか?」
「……ルーメンさん。流石にやり過ぎでは……。まだ挨拶もしてないのに」
案内役からも言葉が飛ぶ。しかし俺は配信者。こんなチャンスを逃すわけにはいかない。とはいえ挨拶は大事だ。
「おっと、自己紹介がまだだったな。俺はルーメン。近くの中野集落に世話になっているものだ」
「わぁはニコ! ルーメンの配偶者だ!!」
カメラに向かって胸を寄せていたダークエルフが姿勢を戻し、ニコに対抗するように胸を張る。
「ワシはアンスラ! この森を抑えるエルフじゃ!!」
一人だけテンションについて来れない案内人が困った顔をしながらポリポリと頭を掻いていた。