ここにいるデカいフナムシは地球のフナムシとは違って海水の中にも入れるらしい。
海岸を観察していると、デカいフナムシ──デカムシ──が海の中から上がって来ているところに遭遇した。そして、その口には魚が咥えられている。コイツら、捕食者側なのか!? ヤバイな。あのサイズのフナムシに群がられると人間だって危ないぞ……。
デカムシが砂浜に魚を置くと、他のデカムシも集まって来た。全部で五匹いる。
俺はアクションカメラをネックマウントに取り付け、配信を開始する。スマホを見ると接続数は二万人を超えていた。痺れる数字だ。無様な姿は見せられない。
デカムシはビチビチとハネる魚に喰らい付き、全くこちらを気にする様子はない。俺はタモ網を構え、ゆっくりと近づく。
「死ねええ!! クソ虫ども!!」
タモ網の中に綺麗に収まったデカムシに向かって、俺は砂浜で拾った石を打ち付ける。ナイフで仕留めると網に穴があいてしまうからな。少々野蛮だが仕方ない。
「オラッ! くたばれ!! 成仏しろ!!」
ふうっ。やっとデカムシ達は動かなくなった。口から茶色い液体を吐いている。これがコイツらの血なのかも知れない。スマホで視聴者のリアクションを確認する。
コメント:でたよ……イビルルーメン
コメント:豹変して殺しまくるとこ、好き
コメント:本当容赦ねーよな。綺麗な顔してるのに
コメント:やっぱりいい。ルーメン様
コメント:久々のイビルルーメンにキュンキュン
コメント:これ、全部食うの?
うん。反応は上々だな。さて、あとはコイツらをどうやって食うかだが、今のところ丸焼きの一択だな。捌くの面倒だし、絵的に映えない。
タモ網にずっしりデカムシと食われかけの魚を入れて、砂浜から離れる。大きなカシワの様な葉をつける木の下に陣取り、アウトドアブーツで地面をならした。流石に焚火で山を焼くわけにはいかない。延焼する恐れのある落ち葉をどけ、少し穴を掘る。手頃な石で囲って、かまどの完成だ。
乾燥した薪をサバイバルナイフで削ってフェザースティックを作り、その上に細かな木を組み上げる。おっと配信を忘れてた。着火シーンは地味に盛り上がるからな。ちゃんと宣言しないと。棒切れで地面に「火」と書いてから、ファイアスターターを取り出す。
いやー、こいつ持っててよかったわ。なかったら生でデカムシを食うところだった。流石にそれはやばすぎる。まぁ、火を通したからといって食えるのかは謎だが……。
マグネシウムの棒を削って粉をフェザースティックに落とし、今度はストライカーで思いっきりこする。火花はマグネシウムに移り、それがフェザースティックのささくれを燃え上がらせた。火はすぐに安定した。この辺はしばらく雨が降ってないようで、薪が乾燥していてよく燃える。
さて、お待ちかねの調理シーンだ。とはいってもただの丸焼きだが。
デカムシを一匹、タモ網の中から取り出し、カメラに寄せる。
コメント:アップすなし!!
コメント:オエエエエエエエ!!
コメント:デカいフナムシ、きめえええ
コメント:マジ無理。
コメント:モザイクはやく仕事して!!
コメント:無修正、キター!!!!
ふふふ。なかなかの盛り上がり。では行くぞ──。
「オリャッ!」
デカムシを焚火に放り込むと、シュウシュウと音を立てて体液が漏れ出し、鼠色だった体が赤く変色していく。あれ? ちょっといい匂いだぞ? 上等な甲殻類をオーブンで焼いているような感じだ。
コメント:あれ……?
コメント:なにこれ、まさかの大逆転?
コメント:なんだか伊勢エビに見えて来た。
コメント:ちょっと美味そうじゃない?
コメント:おいおい、ルーメンさんよぉ、これは違うんじゃね?
コメント:ルーメン、ふざけんなよ……時間かえせよ
なんで美味そうだとコメント欄が荒れそうになるんだよ!! お前等、鬼畜か! 俺はわけのわからない場所で一人、遭難してるんだぞ!! ちょっとは労われよ!!
二十分ほどじっくり火を通し、デカムシを焚火から取り出して葉っぱの上に置く。まだ熱そうだがもう空腹が限界だ。ナイフで半分に割ると、ホクホクとした白身が湯気を上げながら現れる。……美味そうだ。木を削って作った箸でつまむと、殻から簡単に身が剥がれた。
「いっただきまーす!!」
──美味い。めちゃくちゃ美味い。思わず小声になるほどの感動。これ、今まで食べたどんな海老よりも美味いぞ。甘みが半端ない……。しかし、これをもっと美味く食べる方法がある。
「ここで、ヒロセのスパイスの登場です!」
ベストのポケットから小瓶に入ったヒロセのスパイス──通称ヒロスパ──を出して、カメラに映す。
コメント:ヒロスパ持ってるのかよwww
コメント:ヒロスパかけたらなんでも美味いから
コメント:えっ、結局デカムシは美味いの?
コメント:ルーメンのリアクション見ろよ。美味いんだろ
コメント:デカムシ、すまんかった
コメント:グロ映像からの飯テロの落差よ
焼きデカムシにさっとヒロスパをかける。……ああ、いい香りだ。さらに食欲が掻き立てられる。そしてそれを頬張ると──。
「──うめええええ!!」
はぁ。至高だ。
俺は結局、デカムシ五匹を全て平らげた。どいつもこいつも極上の甲殻類で俺は大満足だ。ただ、おかしなことに、ついでに焼いた魚の方は全く食えたものではなかった。あまりの不味さに一口で吐き出し、視聴者は大ウケだった。
ここが何処だかしらないが、なんとか生きていけそうだ。
少し疲れたな。明るいうちに仮眠を取っておこう。夜はどうなるか分からない。
俺はカシワの様な葉っぱの木にもたれ掛かり、右手にはサバイバルナイフを握ったまま瞼を閉じるのだった。
海岸を観察していると、デカいフナムシ──デカムシ──が海の中から上がって来ているところに遭遇した。そして、その口には魚が咥えられている。コイツら、捕食者側なのか!? ヤバイな。あのサイズのフナムシに群がられると人間だって危ないぞ……。
デカムシが砂浜に魚を置くと、他のデカムシも集まって来た。全部で五匹いる。
俺はアクションカメラをネックマウントに取り付け、配信を開始する。スマホを見ると接続数は二万人を超えていた。痺れる数字だ。無様な姿は見せられない。
デカムシはビチビチとハネる魚に喰らい付き、全くこちらを気にする様子はない。俺はタモ網を構え、ゆっくりと近づく。
「死ねええ!! クソ虫ども!!」
タモ網の中に綺麗に収まったデカムシに向かって、俺は砂浜で拾った石を打ち付ける。ナイフで仕留めると網に穴があいてしまうからな。少々野蛮だが仕方ない。
「オラッ! くたばれ!! 成仏しろ!!」
ふうっ。やっとデカムシ達は動かなくなった。口から茶色い液体を吐いている。これがコイツらの血なのかも知れない。スマホで視聴者のリアクションを確認する。
コメント:でたよ……イビルルーメン
コメント:豹変して殺しまくるとこ、好き
コメント:本当容赦ねーよな。綺麗な顔してるのに
コメント:やっぱりいい。ルーメン様
コメント:久々のイビルルーメンにキュンキュン
コメント:これ、全部食うの?
うん。反応は上々だな。さて、あとはコイツらをどうやって食うかだが、今のところ丸焼きの一択だな。捌くの面倒だし、絵的に映えない。
タモ網にずっしりデカムシと食われかけの魚を入れて、砂浜から離れる。大きなカシワの様な葉をつける木の下に陣取り、アウトドアブーツで地面をならした。流石に焚火で山を焼くわけにはいかない。延焼する恐れのある落ち葉をどけ、少し穴を掘る。手頃な石で囲って、かまどの完成だ。
乾燥した薪をサバイバルナイフで削ってフェザースティックを作り、その上に細かな木を組み上げる。おっと配信を忘れてた。着火シーンは地味に盛り上がるからな。ちゃんと宣言しないと。棒切れで地面に「火」と書いてから、ファイアスターターを取り出す。
いやー、こいつ持っててよかったわ。なかったら生でデカムシを食うところだった。流石にそれはやばすぎる。まぁ、火を通したからといって食えるのかは謎だが……。
マグネシウムの棒を削って粉をフェザースティックに落とし、今度はストライカーで思いっきりこする。火花はマグネシウムに移り、それがフェザースティックのささくれを燃え上がらせた。火はすぐに安定した。この辺はしばらく雨が降ってないようで、薪が乾燥していてよく燃える。
さて、お待ちかねの調理シーンだ。とはいってもただの丸焼きだが。
デカムシを一匹、タモ網の中から取り出し、カメラに寄せる。
コメント:アップすなし!!
コメント:オエエエエエエエ!!
コメント:デカいフナムシ、きめえええ
コメント:マジ無理。
コメント:モザイクはやく仕事して!!
コメント:無修正、キター!!!!
ふふふ。なかなかの盛り上がり。では行くぞ──。
「オリャッ!」
デカムシを焚火に放り込むと、シュウシュウと音を立てて体液が漏れ出し、鼠色だった体が赤く変色していく。あれ? ちょっといい匂いだぞ? 上等な甲殻類をオーブンで焼いているような感じだ。
コメント:あれ……?
コメント:なにこれ、まさかの大逆転?
コメント:なんだか伊勢エビに見えて来た。
コメント:ちょっと美味そうじゃない?
コメント:おいおい、ルーメンさんよぉ、これは違うんじゃね?
コメント:ルーメン、ふざけんなよ……時間かえせよ
なんで美味そうだとコメント欄が荒れそうになるんだよ!! お前等、鬼畜か! 俺はわけのわからない場所で一人、遭難してるんだぞ!! ちょっとは労われよ!!
二十分ほどじっくり火を通し、デカムシを焚火から取り出して葉っぱの上に置く。まだ熱そうだがもう空腹が限界だ。ナイフで半分に割ると、ホクホクとした白身が湯気を上げながら現れる。……美味そうだ。木を削って作った箸でつまむと、殻から簡単に身が剥がれた。
「いっただきまーす!!」
──美味い。めちゃくちゃ美味い。思わず小声になるほどの感動。これ、今まで食べたどんな海老よりも美味いぞ。甘みが半端ない……。しかし、これをもっと美味く食べる方法がある。
「ここで、ヒロセのスパイスの登場です!」
ベストのポケットから小瓶に入ったヒロセのスパイス──通称ヒロスパ──を出して、カメラに映す。
コメント:ヒロスパ持ってるのかよwww
コメント:ヒロスパかけたらなんでも美味いから
コメント:えっ、結局デカムシは美味いの?
コメント:ルーメンのリアクション見ろよ。美味いんだろ
コメント:デカムシ、すまんかった
コメント:グロ映像からの飯テロの落差よ
焼きデカムシにさっとヒロスパをかける。……ああ、いい香りだ。さらに食欲が掻き立てられる。そしてそれを頬張ると──。
「──うめええええ!!」
はぁ。至高だ。
俺は結局、デカムシ五匹を全て平らげた。どいつもこいつも極上の甲殻類で俺は大満足だ。ただ、おかしなことに、ついでに焼いた魚の方は全く食えたものではなかった。あまりの不味さに一口で吐き出し、視聴者は大ウケだった。
ここが何処だかしらないが、なんとか生きていけそうだ。
少し疲れたな。明るいうちに仮眠を取っておこう。夜はどうなるか分からない。
俺はカシワの様な葉っぱの木にもたれ掛かり、右手にはサバイバルナイフを握ったまま瞼を閉じるのだった。