午前七時。双眼鏡の視界の先には中学校の校庭がある。そこでは、オークの集団が等間隔に広がって体操をしていた。数えると百体はいる。この組織力……手強いな……。
体操が終わると五体で一つの組となり、それぞれでミーティングを始める。いわゆる朝会だろうか? 規律正しい会社の朝の光景を見ている気分だ。大井町集落より、よほど組織立っている。
「お前も朝の体操をやっていたのか?」
「……イエス。ボス」
俺の隣に立つ豚面のモンスター、オークがぼんやりとした表情で答えた。
「流石に二対百だと勝負にならないな」
「……イエス。ボス」
「何体か連れてきてくれ」
「……イエス。ボス」
抑揚のない声で答えると、オークは中学校に向かって歩き始めた。……とても忠実だ。駒としては申し分ない。
小さくなるオークの背中を見送ると、俺はまた双眼鏡を構える。
校庭の台に上がって何やら偉そうに指示するオークが見える。その体は普通のオークよりも一回り大きく、左眼に大きな傷があった。……ハイオーク。こいつがボスか。
右手に持った重厚なハンマー。こいつで叩かれると、カブトムシのバフでも危ないかもしれない。
しかし、リスクのないところに視聴者は集まらない。俺はこの戦いで同時接続数十万を目指す。最高の絵を見せてやる。
俺はベストから黒く細長い虫の干物を取り出し、ゆっくりと噛み締めた。そうすると、バニラのような甘い香が広がる。アルコール成分はない筈なのに、カッと身体が熱くなる。まるで上等なウィスキーを飲んだような感覚。
俺は、この虫に命をかける。
#
「皆さん! おはようございます!!」
早朝六時だというのに、配信と同時に接続数は五万人を超えた。今もその数字は増え続けている。
「本日は予告した通り、オークの集落を襲います!!」
地面に書いた『オークつぶす……』の文字をカメラに映すと、コメント欄が加速した。
しかし、盛り上がるのはこれからだ。カメラは次の文字を映す。
『with オーク』
コメント:オークをつぶすwithオーク!?
コメント:どゆこと!?
コメント:えっ、オークを食べたの?
コメント:ルーメンさんが変になったー!!
コメント:ルーメンはいつもおかしいから……
コメント:まともなルーメンは死んだルーメンだけだ
凄く失礼なことを言われたぞ! 糞コメント欄の住人どもめ! この絵を見て驚け! ──ドンッ!!
コメント:オークがいっぱい!!
コメント:十体以上いるぞ
コメント:なんでオークと一緒に!?
コメント:なんか、目が死んでない?
コメント:目が虚だな。このオーク達……
コメント:ルーメンさんよ、何したんだ?
ふふふ。気が付いたか。流石は俺の視聴者達だ。目敏いな。俺がこのオーク達に何をしたかって? それは──。
『ハリガネムシのバフで洗脳!! ※ハリガネムシはカマキリの体内に寄生してカマキリを操作します』
コメント:えっ、なんて?
コメント:ごめん……もう一回
コメント:んな馬鹿な。
コメント:いや、引くわ
コメント:やることが全部悪役なんよ
コメント:ウオオオオオオー! 面白そう!!
なんだよ!! 引くなよ!! 十体のオークを集めて洗脳するの、めちゃくちゃ大変だったんだぞ!! この一糸乱れぬ動きを見て驚け!!
「ルーメンオーク隊、気をつけ!」
ビシッ! とオーク達が体を正し、音が響いた。
「ルーメンオーク隊、回れ右!」
コメント:おお、めっちゃ動き揃ってる
コメント:洗練されてる!
コメント:いや、洗脳だろ……
コメント:で、こいつらと一緒に戦うってこと?
コメント:ルーメンを敵に回すと最悪だな
コメント:うひゃひゃーおんもしれええ!!
「ルーメンオーク隊、前に進め!!」
この道の先にはオーク達の集落、下田中学校がある。そこに向けてルーメンオーク隊は二列になって進み始めた。軍靴の音が聞こえた……。
体操が終わると五体で一つの組となり、それぞれでミーティングを始める。いわゆる朝会だろうか? 規律正しい会社の朝の光景を見ている気分だ。大井町集落より、よほど組織立っている。
「お前も朝の体操をやっていたのか?」
「……イエス。ボス」
俺の隣に立つ豚面のモンスター、オークがぼんやりとした表情で答えた。
「流石に二対百だと勝負にならないな」
「……イエス。ボス」
「何体か連れてきてくれ」
「……イエス。ボス」
抑揚のない声で答えると、オークは中学校に向かって歩き始めた。……とても忠実だ。駒としては申し分ない。
小さくなるオークの背中を見送ると、俺はまた双眼鏡を構える。
校庭の台に上がって何やら偉そうに指示するオークが見える。その体は普通のオークよりも一回り大きく、左眼に大きな傷があった。……ハイオーク。こいつがボスか。
右手に持った重厚なハンマー。こいつで叩かれると、カブトムシのバフでも危ないかもしれない。
しかし、リスクのないところに視聴者は集まらない。俺はこの戦いで同時接続数十万を目指す。最高の絵を見せてやる。
俺はベストから黒く細長い虫の干物を取り出し、ゆっくりと噛み締めた。そうすると、バニラのような甘い香が広がる。アルコール成分はない筈なのに、カッと身体が熱くなる。まるで上等なウィスキーを飲んだような感覚。
俺は、この虫に命をかける。
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「皆さん! おはようございます!!」
早朝六時だというのに、配信と同時に接続数は五万人を超えた。今もその数字は増え続けている。
「本日は予告した通り、オークの集落を襲います!!」
地面に書いた『オークつぶす……』の文字をカメラに映すと、コメント欄が加速した。
しかし、盛り上がるのはこれからだ。カメラは次の文字を映す。
『with オーク』
コメント:オークをつぶすwithオーク!?
コメント:どゆこと!?
コメント:えっ、オークを食べたの?
コメント:ルーメンさんが変になったー!!
コメント:ルーメンはいつもおかしいから……
コメント:まともなルーメンは死んだルーメンだけだ
凄く失礼なことを言われたぞ! 糞コメント欄の住人どもめ! この絵を見て驚け! ──ドンッ!!
コメント:オークがいっぱい!!
コメント:十体以上いるぞ
コメント:なんでオークと一緒に!?
コメント:なんか、目が死んでない?
コメント:目が虚だな。このオーク達……
コメント:ルーメンさんよ、何したんだ?
ふふふ。気が付いたか。流石は俺の視聴者達だ。目敏いな。俺がこのオーク達に何をしたかって? それは──。
『ハリガネムシのバフで洗脳!! ※ハリガネムシはカマキリの体内に寄生してカマキリを操作します』
コメント:えっ、なんて?
コメント:ごめん……もう一回
コメント:んな馬鹿な。
コメント:いや、引くわ
コメント:やることが全部悪役なんよ
コメント:ウオオオオオオー! 面白そう!!
なんだよ!! 引くなよ!! 十体のオークを集めて洗脳するの、めちゃくちゃ大変だったんだぞ!! この一糸乱れぬ動きを見て驚け!!
「ルーメンオーク隊、気をつけ!」
ビシッ! とオーク達が体を正し、音が響いた。
「ルーメンオーク隊、回れ右!」
コメント:おお、めっちゃ動き揃ってる
コメント:洗練されてる!
コメント:いや、洗脳だろ……
コメント:で、こいつらと一緒に戦うってこと?
コメント:ルーメンを敵に回すと最悪だな
コメント:うひゃひゃーおんもしれええ!!
「ルーメンオーク隊、前に進め!!」
この道の先にはオーク達の集落、下田中学校がある。そこに向けてルーメンオーク隊は二列になって進み始めた。軍靴の音が聞こえた……。