「おおおおー!! あと五百人です! ルーメンチャンネル登録者数百万人まで、あと五百人というところまで来ましたー!!」

 コメント:うおおおお!! もう少し!!
 コメント:これ、今日中に達成だな
 コメント:みんな登録しよう
 コメント:登録解除しろ! 配信がずっと続くから!!
 コメント:解除すぺ
 コメント:すぺ

「おい! コメント欄!! ふざけるな!! もう五日もずっと無人島で配信してんだからな!! そろそろ家にかえりてーんだよ!! マジ、お願いします。チャンネル登録解除しないでー!!」

 視聴者とじゃれ合いながら、昼飯の食材は何にしようかと思案する。海辺に行ってフナムシを捕まえ、山の石をひっくり返してダンゴムシを採取。節足動物の食べ比べでもするか? 正直もう体力も限界だし、無理はしたくない。

 アクションカメラをネックマウントに取り付け、しばらく座っていたアウトドアチェアから立ち上がる。おぉ、頭がくらくらするぞ。

「うぉ、立ち眩みだわー。これはタンパク質を摂らないとマジやべー。と、言うことで、今からフナムシを捕まえに行きます。奴等、食えるんすよ。素揚げにしてバリバリいけます」

 コメント:オエエエエー!!!!
 コメント:海のゴキブリじゃん
 コメント:釣りの餌で使うぞ。フナムシ
 コメント:踊り食いやって! ルーメンさん!
 コメント:踊り食い? 見たい!!!!
 コメント:踊り食い中に百万人!!!!

「ふざけんなよ! 踊り食いはやべーだろ!! 殺菌しないと死ぬぞ!!」

 全く、視聴者の悪ノリには参る。ただ、コイツらが俺を支えてくれているのも事実。ある程度の絵は見せないとな……。

 海岸の岩場に行くと、俺の足音でフナムシがサッと逃げていく。しかし動かない奴等もいる。何やら俺よりも先にランチをしているらしい。波に打ち上げられた小魚の死体に群がってやがる。

 クソっ! 普通に魚を食いやがって! 俺がそんなことしたらコメント欄がめちゃくちゃ荒れるぞ! 

 虫食べる系配信者は真っ当な食事を許されない。

 最近なんてファミレスで食事してるところをTwittorに晒されたからな……。ルーメン、普通のモノ食べてるじゃん! って。当たり前だっつーの! 俺だってハンバーグとかドリアとか食べるっつーの!!

「はい、皆さん、見てください。愚かなフナムシが食事に夢中になってますよー。自分達が食われる運命だとも知らないで。コイツラ、海の掃除屋なんて言われてて食欲旺盛なんすよねー。それを食物連鎖の頂点に立つ、このルーメン様が頂くわけです」

 そっと近づき、小型のタモ網を構える。よし、まだフナムシどもは食事に夢中だ。

「オラッ! 観念しろ!!」

 勢いよくタモ網をフナムシの集団に被せる。

「おおおおー!! めっちゃ入っためっちゃ入った!!」

 パニックになったフナムシがわざわざ網の奥に入ってきた。サッと近づいて網を手で締めて袋状にし、フナムシの逃げ場をなくす。

「見て下さい! 大量です!!」

 コメント:きめえええー!!
 コメント:モザイクかけろよ!!
 コメント:うじゃうじゃいる!!
 コメント:マジこれ食べるの? やばくね?
 コメント:馬鹿、ルーメンさんなら踊り食い余裕よ
 コメント:ルーメンはやる男

「うっせええ! お前等、煽ったら俺は何でもやると思ってんだろ!! 何事にも限度があるんだぞ!! フナムシの踊り食いはアウトかセーフで言ったら……」

 コメント:セーフ!!
 コメント:セーフだな
 コメント:セフセフ
 コメント:セーフ・オブ・セーフ!!
 コメント:絶対セーフしょ!
 コメント:はいはい。セーフセーフ

 スマホの画面にものすごい勢いで煽りコメントが流れる。ウオオオオオー!!

「セーフだああああああー!!!!」

 やってやらァァァァ!! タモ網から一匹、フナムシを掴んで口に放り込む──。

「オエエエエエエエー!! ぺっ! ぺっ! こんなモノ生で食えるわけ──」

 ──また立ち眩みがやってきた。ダメだ。いよいよ限界だ。無理してテンション上げ過ぎた。下半身の力が抜け、海水で濡れた岩が俺の足をすくう。

 やばい。視界がスローモーションだ。雲一つない青空がいっぱいに広がる。あぁ、なんて気持ちのよい光景だろう。

 ──ゴンッ! と後頭部に鈍い音が響いたのを最後に、俺は意識を失った。