「おい、ついたぞ。」
そうユウリをここまで連れてきてくれた男、シュウは言う。その男はさらっと自分の名を述べるとそれ以上は言わず、安定感のある足取りでここまでたどり着いたらしかった。
そうしてどうやら寝ている間にシュウは迷うことなくユウリの家にたどり着いたようだ。
その声に意識が浮上してこんなに寝こけてしまったことに警戒と不安が入り混じる。
しかししっかりと目を開けると見慣れた扉の前だ。
「よく、迷子にならなかったな?礼を言う。…ここでおろしてくれて構わない。少しそこのソファーに座ってろ。」
そういうと勢いのままにユウリは背中から飛び降りようとした。
しかし思ったように体が抜けなくて妙にブラブラと垂れ下がる足の重さに顔をしかめた。
シュウがぎゅっとユウリを離さなかったせいらしい。
「おいっ!でもその足じゃ歩くのがきついんじゃないか?代わりにやろうか?」
「いやこのくらいなら問題ない。というかお前は客人だ。」
「チッ…。けが人は甘えてろ。俺がそこまで運んでやる。」
そういうと中へそのまま入って、キッチンの近くまで運ぶ。
足取りは軽い。
ユウリは横眼に男の姿を確認しながら紅茶をお気に入りのティーカップに入れる。
正直、俺はお気に入りとか言ったけどいつからこのカップが家にあったかよく覚えていない。
なんとなく大切なのだ。
その時、茶の水面に眩しく何かが移った気がして顔をあげた。
しかしそこにいたのは運んできてくれた張本人のみで、それ以外に見当たらない。
眩しさの原因は何だろうか…?
そう思っていると風になびいて今度は直接教えてくれる。
暗い森の中では気づかなかったが、シュウの灰色かと思っていた髪も少し太陽に当たると銀色に輝く星屑のようだった。歩きながら聞いた話によると年も同い年というから、偶然にしてはめずらしい。
しかも、シュウだなんて名前、この国ではトップ20には入るくらい良くある名前だ。
こんな美人がこのような偏狭な地に一人で、怪しく森の中で、…絶対偽名だな、そう結論づけた。
ユウリが程なくして入れたお茶を目敏く確認すると立ち上がって何も言わずにソファーに戻る。
まるで家の中を知っていたかのようだ。
「家の中は武器が多いな?全部お前が使っているわけじゃないんだろう?」
そんなことも気づくのか…。
細かな指摘に単なる貴人ではなさそうだと見当をつけつつもその芸当に目を見張る。
確かに一見するとどこの武器倉庫かと見間違えるほどの武器の数ではあるが、そう簡単に言い切れるものではないだろうに。
「俺は普段ギルドで傭兵や護衛の仕事をすることが多くて、武器を使い分けているんだ。でも確かに全部は俺のじゃないな。」
何だか当てられたことが面白くて初対面は気づかないくらいの微笑を浮かべた。
「じゃあ、今日はそいつが相棒か?」
視線で、さっきまで背負っていた大剣を指すとニヤッと笑う。
「ああ、普段使いはこっちだ、父が選んでくれたものなんだ。」
やっぱりこいつ見る目あるな。
ますますユウリはシュウがいいやつだと評価したのだった。
「それよりもどうしてお前は森の中にいたんだ?あそこらへんはあまり人が立ち寄らないだろう?」
紅茶に口をつけながらそんなことを口にする。そのことにふとユウリは行動を止めてカップを元に戻した。
「………そのことを忘れていた。」
「は?忘れてたって……」
俺は気づいたときにあそこに立っていた。
気づいた時には足が痛くなっていたし、どうしてあんな所にいたのかも思いだせない。確か今日の朝はいつも通り起きたはずだ。
「…。」
--------今朝今朝何かあったかな。記憶がない…
「なんでいたのか忘れた。」
「忘れたって……今日の朝の話だ、そんなことあるのか?」
シュウはいたって真面目に答えたユウリの顔を見ると笑いながらも少々あきれた表情でそう返す。
真面目に悩み始めたユウリを見て、シュウはユウリの頭をくしゃくしゃと撫でた。
人に頭を触られるなんて何年ぶりだろう。
ユウリは幼いころに両親と別れてからこんな風に人と接したことがあっただろうか、と記憶の彼方に記憶を馳せた。
ギルドの親父には頭をはたかれることもあったが、最近じゃそんなもの少なかった。何しろ命と隣り合わせだ。
親父からは強いげんこつが愛情表現というものだ。
しばらくその手はどかなくて、いつまでするんだろうと思いながら頭の端で浮かんだのは肉屋の番犬ジローだった。
『ジローちゃん』『ジローちゃん』『ジロ』『じろ』……と。
「じゃあ次はボーっとしないように気を付けないといけないな」
そういうと目を細めもう一度頭を撫でてきた。
めったに撫でられることのないはずの頭を撫でられて少しくすぐったさを覚えるとなんだか、むずがゆくて、腕をつかんだ。
「——っ、お、俺は犬じゃねえってば……」
———犬みたいによしよししやがって…。
今朝のことと言われても覚えていないものはどうにか思い出そうとしても難しいのだ。
頑張って思い出している途中で何というマウントの取り方だとユウリは顔をしかめた。
忘れたかもしれない内容を、唸って考えてみるけれどさっぱりひらめかない。ユウリはつかんだ腕を下に向けながら、シュウと目を合わせた。
「それよりもお前、お礼がしたい。なにがいい?」
じっと見つめるとシュウはキョトンとした顔でこっちを見つめ返した。
「なんかしてくれるのか?いいのか?」
「さすがに足を怪我しているから「何でも」は無理だが、できることなら」
――――――――どうせ初対面に図々しい奴じゃないはずだ。
正直捻挫していても困るようなことは要求されないと思っていたから、主導権はあっちで問題ない。そんなことよりも借りを作るのはごめんだ。
そうユウリをここまで連れてきてくれた男、シュウは言う。その男はさらっと自分の名を述べるとそれ以上は言わず、安定感のある足取りでここまでたどり着いたらしかった。
そうしてどうやら寝ている間にシュウは迷うことなくユウリの家にたどり着いたようだ。
その声に意識が浮上してこんなに寝こけてしまったことに警戒と不安が入り混じる。
しかししっかりと目を開けると見慣れた扉の前だ。
「よく、迷子にならなかったな?礼を言う。…ここでおろしてくれて構わない。少しそこのソファーに座ってろ。」
そういうと勢いのままにユウリは背中から飛び降りようとした。
しかし思ったように体が抜けなくて妙にブラブラと垂れ下がる足の重さに顔をしかめた。
シュウがぎゅっとユウリを離さなかったせいらしい。
「おいっ!でもその足じゃ歩くのがきついんじゃないか?代わりにやろうか?」
「いやこのくらいなら問題ない。というかお前は客人だ。」
「チッ…。けが人は甘えてろ。俺がそこまで運んでやる。」
そういうと中へそのまま入って、キッチンの近くまで運ぶ。
足取りは軽い。
ユウリは横眼に男の姿を確認しながら紅茶をお気に入りのティーカップに入れる。
正直、俺はお気に入りとか言ったけどいつからこのカップが家にあったかよく覚えていない。
なんとなく大切なのだ。
その時、茶の水面に眩しく何かが移った気がして顔をあげた。
しかしそこにいたのは運んできてくれた張本人のみで、それ以外に見当たらない。
眩しさの原因は何だろうか…?
そう思っていると風になびいて今度は直接教えてくれる。
暗い森の中では気づかなかったが、シュウの灰色かと思っていた髪も少し太陽に当たると銀色に輝く星屑のようだった。歩きながら聞いた話によると年も同い年というから、偶然にしてはめずらしい。
しかも、シュウだなんて名前、この国ではトップ20には入るくらい良くある名前だ。
こんな美人がこのような偏狭な地に一人で、怪しく森の中で、…絶対偽名だな、そう結論づけた。
ユウリが程なくして入れたお茶を目敏く確認すると立ち上がって何も言わずにソファーに戻る。
まるで家の中を知っていたかのようだ。
「家の中は武器が多いな?全部お前が使っているわけじゃないんだろう?」
そんなことも気づくのか…。
細かな指摘に単なる貴人ではなさそうだと見当をつけつつもその芸当に目を見張る。
確かに一見するとどこの武器倉庫かと見間違えるほどの武器の数ではあるが、そう簡単に言い切れるものではないだろうに。
「俺は普段ギルドで傭兵や護衛の仕事をすることが多くて、武器を使い分けているんだ。でも確かに全部は俺のじゃないな。」
何だか当てられたことが面白くて初対面は気づかないくらいの微笑を浮かべた。
「じゃあ、今日はそいつが相棒か?」
視線で、さっきまで背負っていた大剣を指すとニヤッと笑う。
「ああ、普段使いはこっちだ、父が選んでくれたものなんだ。」
やっぱりこいつ見る目あるな。
ますますユウリはシュウがいいやつだと評価したのだった。
「それよりもどうしてお前は森の中にいたんだ?あそこらへんはあまり人が立ち寄らないだろう?」
紅茶に口をつけながらそんなことを口にする。そのことにふとユウリは行動を止めてカップを元に戻した。
「………そのことを忘れていた。」
「は?忘れてたって……」
俺は気づいたときにあそこに立っていた。
気づいた時には足が痛くなっていたし、どうしてあんな所にいたのかも思いだせない。確か今日の朝はいつも通り起きたはずだ。
「…。」
--------今朝今朝何かあったかな。記憶がない…
「なんでいたのか忘れた。」
「忘れたって……今日の朝の話だ、そんなことあるのか?」
シュウはいたって真面目に答えたユウリの顔を見ると笑いながらも少々あきれた表情でそう返す。
真面目に悩み始めたユウリを見て、シュウはユウリの頭をくしゃくしゃと撫でた。
人に頭を触られるなんて何年ぶりだろう。
ユウリは幼いころに両親と別れてからこんな風に人と接したことがあっただろうか、と記憶の彼方に記憶を馳せた。
ギルドの親父には頭をはたかれることもあったが、最近じゃそんなもの少なかった。何しろ命と隣り合わせだ。
親父からは強いげんこつが愛情表現というものだ。
しばらくその手はどかなくて、いつまでするんだろうと思いながら頭の端で浮かんだのは肉屋の番犬ジローだった。
『ジローちゃん』『ジローちゃん』『ジロ』『じろ』……と。
「じゃあ次はボーっとしないように気を付けないといけないな」
そういうと目を細めもう一度頭を撫でてきた。
めったに撫でられることのないはずの頭を撫でられて少しくすぐったさを覚えるとなんだか、むずがゆくて、腕をつかんだ。
「——っ、お、俺は犬じゃねえってば……」
———犬みたいによしよししやがって…。
今朝のことと言われても覚えていないものはどうにか思い出そうとしても難しいのだ。
頑張って思い出している途中で何というマウントの取り方だとユウリは顔をしかめた。
忘れたかもしれない内容を、唸って考えてみるけれどさっぱりひらめかない。ユウリはつかんだ腕を下に向けながら、シュウと目を合わせた。
「それよりもお前、お礼がしたい。なにがいい?」
じっと見つめるとシュウはキョトンとした顔でこっちを見つめ返した。
「なんかしてくれるのか?いいのか?」
「さすがに足を怪我しているから「何でも」は無理だが、できることなら」
――――――――どうせ初対面に図々しい奴じゃないはずだ。
正直捻挫していても困るようなことは要求されないと思っていたから、主導権はあっちで問題ない。そんなことよりも借りを作るのはごめんだ。