三月八日。
 朝の八時に海に面したコンビニ脇でゴミの分別をしていると、着飾った保護者の運転する軽トラックが国道から駐車場に入ってきた。
 助手席から緊張した面持ちの高校生が駆け出してきたかと思うと、朝食用なのか、おにぎりとドリンクを買ってあっという間に去っていった。
「今日は高校の卒業式だね」と、客のいない店内からオーナーのおばさんが顔を出す。「遙香ちゃんももう三年になるのね」
 ええ、そうですねとうなずき返すと、おばさんは私がまとめたペットボトルの袋を裏のゴミ置き場に持って行ってくれた。
 実際、私が地元の高校を卒業してこのコンビニで働くようになったのは三年前だ。
『八は末広がり』と縁起を担ぐために毎年同じ日に卒業式が行われるから、日付を見れば思い出す。
 ここは何もないことで有名な北海道の海沿いにある町。
 目の前には昆布揺らめく海が広がり、振り向けば背骨のように山がそびえ、その山脈は町外れで断崖となって荒波打ち寄せる海に向かって落ち込んでいる。
 自転車が押し返されるほどの勢いで吹き寄せる風は夏でも冷たく、もちろん冬は町中が雪と氷で覆われ、息を吸うだけで肺まで凍りつきそうになる。
 空を見上げても一年のほとんどが鉛色で、お日様を見ることはあまりない。
 まさに地の果てのような土地だ。
 地元には小さな郵便局と週に三日しかやらないガソリンスタンド、夕方には閉まるこのコンビニ以外に店はなく、車で海沿いを一時間走ればスーパーやホームセンターのあるちょっとした街に出られるけど、今のように運転できる年齢になるまではそれすらもめったに行けない憧れの大都会に思えたものだった。