「……っ、」


 〝これからも〟


「う……っ、」
 
 
 陽之木くんに、〝来ちゃダメだよ〟って優しく言われているみたいだった。

 
「うぅー……っ」
 
 
 立っていられなくなった私は、その場に崩れ落ちた。
 教室の床に、陽之木くんへの想いがポタポタと落ちていく。


 好きだ。
 陽之木くんが好きだ。
 息苦しい毎日の中で、陽乃木くんといる時だけ息ができた。
 好きだ。 陽乃木くんが好きだ。 大好きだ。
 だから会いたい。
 だからもう君のいない世界なんて考えたくない。

 ……でも。

 大好きな陽之木くんが好きになってくれた私を、私も好きになりたい。
 一生懸命頑張る、かっこいい私でいたい。
 これからも。
 陽之木くんに誇れる自分でいたい。

 だからもう、


「っ……、もう会えないんだね、陽之木くん」


 それから私は、小さな教室で一人うずくまって、時計を握りしめて延々と泣いた。
 小さな子でも、きっとこんな泣き方はしないだろう泣き方で、嗚咽を漏らしながらわんわん泣いた。
 泣いて、泣いて、体中の水分を全部無くすくらい泣いて、せき止めていたたくさんの感情を、涙と一緒に流していく。

 私は今日、卒業する。
 春の匂いと、君がいたこの世界を確かに感じながら。
 かっこ悪い涙は全部ここに置いて、
 君と、ここから卒業する。
 
 窓の外では、高くて青い三月の空がいつの間にか燃えるような赤い夕陽に押し出されて、ビルの向こうに消えていた。
 その代わりに現れ始めた藍色の夜は、やけに澄んで、信じられないくらいにキレイだった。
 私は、大きく息を吸って、吐いた。