これまで抑え込んでいた黒い感情の渦が、身体中を這いずり回る。
 ビタビタと、鳴らないスマートフォンに涙の粒が落ちていく。

「ぅ……、うぅ〜っ」

 陽之木くんは、いつもそうだ。
 私の想像をはるかに超えることをして、私を驚かせる。
 陽之木くんは、いつもそうだ。
 ありのままの暖かさで皆を巻き込んで、私の心さえ優しくこじ開ける。
 陽之木くんはいつも、いつもいつも、
 ――……ちがう。
 陽之木くんはもう、そうじゃない。
 もういつもの場所に当たり前に来てはくれない。
 もう本当は私のために買ってきてくれたお菓子を寄越してはくれない。
 もう、好きだよって言ってもくれない。
 陽之木くんはいつも本当だった。
 テキトーじゃなかったし、揶揄ってもいなかった。
 テキトーだったのも嘘つきだったのも、私。 全部私。
 ずっと逃げてきたんだ。
 陽之木くんと向き合って、自分自身のダメな部分を見られて嫌われることが怖かったから。
 いつか自分に幻滅するだろう陽之木くんを、好きになってしまうのが怖かったから。
 だからそうなる前に、全部なかったことにしようとした。
 そして本当にいなくなってしまった陽之木くんからも、私は逃げた。
 〝卒業〟という綺麗な言葉にくるんで、無かったことにしようとした。
 だけど。
 だけど、こうしてまた君にこじ開けられた。