「なんで素直にならなかったんですか?」

 それは突然、真正面から手加減なしに殴られたような感覚だった。

「え……?」

 依田くんは手際よく私のボールを拭いてから持ち上げて私に持たせた。

「翔先輩のこと好きだったんですよね」

 時間をかけて必死で取り繕った穴を、突然壊されるような。

「……は……?」

 こちらの都合なんかお構いなしで、容赦なく引っ掻きまわされるような感覚。 陽之木くんにそっくりだ。

「堂々と言えばよかー……」
「そんなんじゃない!」

 思わず張り上げた声の大きさに、自分でも驚いて口を抑える。

「……そんなんじゃない?」

 依田くんが目を細めて眉間をひくつかせるのが見えて、目を逸らす。


 そう。 そうだよ。 私たちはそんなんじゃなかった。
 陽之木くんはマリナちゃんといい感じで、私は陽之木くんを好きじゃなかったし、陽之木くんも私を好きじゃなかった。
 私たちには何もなかった。 それでいいじゃない。
 どうして蒸し返そうとするの。
 何もかも終わったことを、どうして今更確かめようとするの。

「へぇ。 そうなんですね。 じゃあもういいっす、はやく投げてください。 次でラストなんで」

 依田くんがめんどくさいとばかりに、私を追い払うように手をヒラヒラさせた。
 突然対応が雑になった依田くんに怒りがこみ上げてくる。
 なんでそんな邪険に扱われなくてはいけないんだ。 呼び出されたのはこっちなのに。

「これ投げたら帰る!」
「どーぞ好きにしてください」

 なんなの、なんでそっちが苛立ってるの。
 どうしようもなく腹が立って、私は依田くんへの憤りをごまかすように両手に持ったボールを勢いよく放り投げた。 するとボールはやっぱり端にぶつかりながらジグザグで進んでいく。