私は陽乃木くんが座っていたところに荷物を置いた。
 前方にはボウリングのピンたちが姿勢正しく気をつけをして、どうぞ投げてくださいと言わんばかりにこちらを見ている。
 そこから目を逸らすように見上げると、大きなモニターにスコア表が映し出されていた。
 そのプレイヤー欄には、『チノチャン』と『ハルノギクン』とあった。


「……」


 もう、なんなの。
 いったい何が起こってるの。
 これから幽霊の陽之木くんと対戦しろとでも言うのだろうか。

「しゃっす」

 後ろから男の子の声がして、ハッと振り向く。

「え……依田くん?」

 オレンジ頭の男の子がそこに立っていた。 表情豊かなお兄さんと反対に、弟の依田くんは無表情のまま私を見下ろしている。
 その目は、今日卒業式で見た時と同じで鋭く、色がない。

「翔先輩の代打、自分でもいいっすか」

 依田くんは私の返事を聞く前にスポーツバッグをベンチに置いてボールを取りに行き、シューズを履き替えた。

「え、いや、私は……」
「12……は重いっすかね。 10なら持てますか」

 依田くんは私に10ポンドの球を持たせてじっと私を見た。

「いい感じっすか」
「あ、う……ん」

 私が曖昧に頷くと、依田くんは10ポンドのボールをもう一つと自分用の16ポンドのボールを置いて、ベンチに腰掛けた。

「じゃ、先攻どーぞ」

 そう言って手のひらでレーンの方を示した。

 ……どうぞって、言われても。

 展開が早すぎて、疑問点も多すぎて、なにからつっこんだらいいのか分からないくらいなのになにか聞ける空気でもない。
 なにこれ。 何が起こってるの。
 マサキさんも依田くんも、何か知ってるの? 
 ……もしかして、メッセージを送ったのは依田くん?