拙者、星の首輪改め、これからは「にくきゅうまる」として生きていくことになりました。えー、言葉がいろいろおかしいのは、まだ慣れておりませぬ故、その辺り温かい目で見てご容赦いただきたい。

「ほら、ユキポンどの、姫の気持ちが解れましたぞ。ささ、もっと何か楽しかったことや、嬉しかったことなどを思い出してもらって、辛いことなど忘れてもらうのですぞ」
「にくきゅうまる……お前、名前がついて、ちょっと賢くなったにゃー。にゃー、未奈ちゃん。食事が美味しいにゃー」
「こら、未奈様が混乱しておられる。もっと丁寧に話さぬか」

 とユキポンに耳打ちして注意する。

「カリカリの事?」
「違うにゃー。未奈ちゃんの作った料理が美味しいにゃー。僕、未奈ちゃんの心の中に来てから、未奈ちゃんと一緒に食べてたにゃ」
「未奈ちゃんが美味しいと思ったものは、僕も美味しいにゃー。カボチャの入ったミネストローネスープがいいにゃ。あんな美味しいもの食べた事なかったにゃ。……カリカリ以外」
「最後に余計なことは言わないでござる」

 ユキポンに耳打ちする。まったくユキポンは。

「にゃー。天才にゃ。あんにゃ美味しい料理作れるなんて、あんな幸せな気分になれるにゃんて。……だから、ちゃんと作って食べよう。最近ちゃんと食べてないにゃ」
「……私、気付いたの。美味しい食事を作れば作るほど。誰かと一緒に食べたいって。誰かと。一緒に。……彼と。一緒に。そのために私」
「ぼくが食べるにゃ! ぼくが一緒に!!」
「……ありがとう。ユキポン」

 ……拙者も一緒に食べるでござる。口はないけど。

「僕、知ってるにゃ。未奈ちゃんの心に居るんだから。彼がピアノを弾いて、それを聴きながら未奈ちゃんがご飯を作って、ご飯のいい匂いと、優しい音色のピアノ。そこにあった幸せ。知ってるにゃ。初めて彼と食事をした時の事、初めて自分のためにピアノを弾いてもらった日の事、その嬉しくて嬉しくてたまらなかった気持ち。僕も知ってるにゃ。だから、悲しいのも、辛いのも、痛いのも、わかるにゃ。 だけど、だけど、それが全てじゃないにゃ」
「……」
「未奈ちゃんは、彼に会う前から料理がすきだったにゃ。みんなに喜んでもらうために、調理師学校に行って勉強してたにゃ。美味しいもの食べるとみんな笑顔になるって、知ってるにゃ知ってるにゃ知ってるにゃ。未奈ちゃんだって知ってるにゃ」
「うん。分かってる。頭ではわかてるんだけどね…… 忘れようとしても、忘れようとすればするほど、心があの時に戻って……」

 そういうと未奈様は寂しそうに俯いた。

「僕は……」
「……」
「僕は……」
「……」
「僕だって、何か未奈ちゃんの役に立ちたいにゃ。にゃんも出来ないかもしれないけど。僕だって役に立ちたいにゃ」
「ユキポン」

 未奈様が顔をあげる。

「僕は……、小学生の未奈ちゃんに拾ってもらって、タオルで拭いてもらって、温めたミルクを飲ませてもらって、僕は幸せだったにゃ。そして、未奈ちゃんの笑顔が大好きだったにゃ」
「……」
「ミルクを飲みながら、見てた未奈ちゃんの笑顔はマボロシじゃないにゃ」
「……」
「皆んなに料理を作ってあげてた未奈ちゃんの笑顔はマボロシじゃないにゃ」
「……」
「未奈ちゃんはいっぱいいっぱい皆んなを幸せにして。僕を幸せにしてくれたにゃ。だから、僕だって、ピアノ弾けないけど。何も出来ないかもしれにゃいけど。でも、でも、ここにいるにゃ!!!!」

 ユキポンは「フーフーフー」と興奮しながら言い切った。
 ……拙者の出る幕ではないな。ユキポンがんばれ!
 未奈様は、長椅子に座り壁にそっと寄り掛かった。
 そしてそのまま、しばらく黙って、雨降る外を眺めていた。

「消えちゃ 嫌にゃ!」

 ユキポンが、未奈様の膝に飛び乗り、丸くなった。