私は混乱していた。
 ユキポンがしゃべった。
 うん。まあ、これはよしとしよう。うん。
 そして……

「えーと、首輪?」
「はい。俺、首輪です」
「……そ、そう」
「えーと。中学生の未奈様に作っていただきました。それはそれは一所懸命。お父様にいただいた何かの生地を一生懸命切って、縫って、手に針を刺しても、一生懸命一生懸命。ありがとございます。高貴な濃紺の生地に丸いかわいい黄色い星。気に入っています。素晴らしい。天才だ。創造主だ。神様だ」
「……あ、うん」

 私はなんて答えて良いか分からなかった。
 だって、首輪がしゃべるなんて。
 しかも何故、おじさんの声?
 そして何? このキャラは。

「ユキポン。ほら、お前もなんか言え」と首輪がユキポンに言った。
「にゃー。まあー、悪いやつじゃないにゃ」
「えっと……」

 私は、なんて言えばいいか考えた。
 これは中学生の時の工作で作った首輪。
 夏休みの最終日、慌てて作った首輪だった。

「そう……なのね」としか、言えなかった。
「はい、俺、首輪です」
「そう」
「はい」

 私は、何といえばいいのか、何をすればいいのか考えたけど、あまりにビックリして何も浮かばなかった。そのまま、沈黙が続いた。そして、しばらくして首輪がまた話し始めた。

「あのー、そのー、もしー、よければ、私にも、そのー、是非名前をくれませんか?」
「えっ、名前?」
「はい。ユキポンの首輪ではなく。れっきとした。この、私にふさわしい名前を。未奈様、神様、未奈未奈様。どうかこの私目に名前を」
「……」
「……ダメですか?」

 ……困った。どうしよう。

「ダメっていうか…… じゃ、にくきゅうまる」と咄嗟に答えた。
「に、にくきゅうまる……ですか? 肉球? それは、何故、肉球?」
「え、だって、それ。猫の肉球だもん」

 といって私は、首輪の黄色い丸を指差した。

「え、この星は、星ではなく、これは肉球でござりまするか?」
「ユキポン、足かして」
「にゃ?」

 私はユキポンの足を裏返して、柔らかい肉球を撫でた。

「これ」
「お、俺は、星ではなく肉球…… そして、にくきゅうまる……」

 黄色い形で彩ったユキポンの肉球、ちょっと大きな丸に、ちょっと細長い丸が4つ。

「ごめん。まだ中学生だったし、夏休みの最終日だったから…… えっと、その、くっついちゃったし、ちょっと歪んでるけど…… でも可愛いかなって」
「に、にくきゅうまる……」と首輪が変な声を出した。

 ……私、悪いこと言っちゃったかな。

「えっと。ごめん」
「にく、にく……」
「名前、変えようか?」
「ヒャッホー!!!肉球ー! 肉球最高!! 今、時代は肉球。誰もが大好きな肉球。肉球バンザイ!! インスタ映え間違いなし、バズりまくり。そして何よりも、未奈様が大好きな肉球。その名前を頂けるなんて。 あーーーーー、こんな嬉しいことはございりませぬ。すばらしき名前『にくきゅうまる』。拙者、今日から『にくきゅうまる』。そのお役目しっかりと果たしまする」

 ユキポンが首輪に話しかける。

「落ち着きにゃ。しゃべりがなんか変にゃー」

 ……どうしよ、いいのかな?

「無理しなくていいよ?」
「滅相もごまいませぬ。拙者、にくきゅうまる。感激至極にござりまする。ここで命を落としても本望」
「本当にいいの?」
「いいんじゃないかにゃー。気にいってるみたいだにゃー」
「ウッ、ウッ、ウッ、ウッ」と首輪の鳴き声。
「にゃくな。にくきゅうまる。首が震えてこそばゆいにゃー」
「すまぬ。ユキポンどの。嬉しくて、嬉しくて。涙がとまらぬ。……涙は出ないけど」
「出なくて良かったにゃー」
「さささささ、次はユキポンどの。出番でござる」
「お前、何もしてないにゃー!!!」

 仲いいのね。
 私は、ちょっと二人がうらやましくなった。