桜並木から少し離れ、川原の方までやって来た。

その淵にしゃがみ、微かなせせらぎを聞く。

水の側まで来ると、気温がやや下がる気がする。

それが、今は心地好い。

――良かった。落ち着けそう。

少し鼻をすすった。

そっと吹く春の夜風は、未だに湿りっ気の残る頬を乾かしてくれる。

先程まで賑やかな場所に居たせいで、1人ぼっちの空気は、酷く寂しい。



「……結局、逃げてきちゃった」



あの瞬間、服部くんと目が合っていたと思うと、声が出なかった。

もしあの場で、流れに身を任せて告白してしまっていたら。

服部くんにとって、年下の椿ちゃんがお気に入りなのだから、きっとスベって、かわされていたんだろうと想像すると、ゾッとする。

そんな未来が見えて、私の場合は言わなくて良かったのかも。

だけど。



「服部くん……」



後輩たちのどんな不安も、優しく力強く支える彼の微笑みが過る。

ああ、私、絶対に後悔する。

間違いなく。

溢れる想いは、どうにも止められなくて、唸るしかなかった。



「好き……」



発した自分の声が虚しく、春の、夜の空気に消える。