「そ、そんなことないよ」

「気を遣わなくても良いんですよ。知ってますから、清水さんが服部先輩のこと、ずっと目で追っていたことぐらい」



私が「え」と間抜けな顔で返すと、直江くんはクスッと笑った。



「清水さんって、本当に鈍感ですよね」



すると、一歩、彼が距離を詰める。

彼の動きを止めさせたくて、私は掌を前に突き出し、彼の名前を口にしようとしたが無駄だった。



「俺、清水さんのこと、好きです。ずっと憧れてます」



言葉を失った私に、直江くんは困ったと眉根を下げる。



「やっぱり気付いてくれる訳ないですよね。清水さんは、いつだって服部先輩しか見てない。憎いくらいに鈍感で、一途で……」



そこで話すのを止めると、不意に私の方へと手を伸ばした。

そして、そっと髪に触れられる。

あまりに、積極的な行動に肩が跳ねた。

直ぐに離された彼の手には、1枚の花弁が。

それを、さり気無く、風に流す。



「清水さんの向ける、その視線の先が俺だったら……なんて。女々しくて、すみません」



直江くんの声が、徐々に小さくなっていく。

答が分かっていて、それでも気持ちを伝えてくれた。

相当、勇気のいることなはずなのに。



「ありがとう。伝えてくれて」



そう言った私の声が、震えていた。

そんな情けない私の返しに対し、大きな溜め息が更に帰ってくる。