「ミラージュ=クラウディア、出てこい!」

「ふぇっ?」

今日は学園の卒業パーティ。

滅多に食べられない料理に舌鼓を打っていると、なぜか自分の名前が呼ばれた。

慌てて呼ばれた方へと行くと、そこには婚約者のロデア=ジュロンがいた。

「クラウディア!」

私が来たことに気付いた婚約者は、厳しい顔つきで私の名前を怒鳴るように呼ぶ。

「そんなに怒鳴らなくても聞こえてますわ」

歩くスピードを緩め、近付こうとすると、「それ以上近付くな!」と止められた。

「ミラージュ=クラウディア!僕はお前と婚約破棄をする!」

「まあ…なぜですの?」

「理由は分かっているだろう?」

「いいえ、分かりませんわ」

「な……!」

彼の額にビキッと青筋が浮かぶのが見えた。

「自分の胸に手を当てて考えてみろ!」

そう言われたので胸に手を当てて考えてみるが、何も思い浮かばない。

「言われた通りにしてみましたが、分かりませんでしたわ」

困った表情を浮かべて首をコテンと傾げると、(あ、青筋が増えた)

「とぼけるな!カレンをいじめただろう!」

「…カレンとは一体、どこの御令嬢ですの?」

「貴様がいじめたカレン=デュレン嬢のことだ!」

「カレン=デュレン嬢とは、一体どなた?」

「貴様…!美しいピンクの髪に、透き通るような水色の瞳の令嬢だ!」

「まあ、あの方。そういう名前でしたのね」

「自分ていじめておいて、名前を知らないだと?ふざけるな!」

「ふざけるなと言われましても…私、あの方に一度も名前を名乗られてないので」

何度話をしようとも、貴族において名前を名乗らないことは知らないことを意味する。

それを知らないはずがないのだが、とうとう怒りが我慢出来なくなったらしい。

「ふざけるなー!!」

と地団駄を踏み始めた。

「まあ……」

思わず口元を扇で隠す。

侯爵家ともあろう方が、そのような態度を見せるなんて…。