結局大和は私の家まで肩を貸してくれた。
「ただいま」
「こんちは~」
私と大和の声に、母が慌てて出迎える。
「あらあら、大和君じゃない。こんにちは」
笑顔で大和に挨拶をした母は次に私を見て、目を見張った。
「夕璃、どうしたの、その格好! 目も腫らして! いったい何があったの?!」
「ちょっと、いろいろね」
「……いろいろ。来ているお客さまと関係あるのかしら」
「え?」
母の言葉の意味を図りかねたまま、リビングのドアを開けて。
私の心臓は止まりそうになった。
のっぽさんがお茶を飲んでいたのだ。
「早瀬さん」
私と大和を見て、のっぽさんが椅子を引いて立ちあがった。
「なにがあった?」
私と大和を交互に見て、のっぽさんが言った。
「な、なんか誤解してない!? 夕璃が泣いていて、鼻緒が切れていて! と、とにかく、俺はそんな状態の夕璃が危ないから送ってきただけだから!」
大和は早口にまくし立てて、一度言葉を切った。
「ただ、夕璃を泣かすのはやめて欲しいね。幼馴染みとして心配にはなるから。それじゃ、俺は帰るから」
大和はのっぽさんに向かってそう言うと、踵を返して玄関で靴を履いた。私は慌ててその大和の腕を掴んだ。
「ちょっと、こんな状況で帰るの?」
「俺は馬に蹴られて死んじまうのはやだからな。それじゃ、幸運を祈る! おばさん、お邪魔しました~」
大和は出て行ってしまった。
「あらあら……なんだか今日は忙しい日ね」
呟いた母を横目に、私はがっくりと肩を落とす。この状況、一体どうすればいいのだろう。
のっぽさんははぐれた私を心配して、住所を卒業アルバムで調べてうちに来たらしい。
とりあえず私の部屋に行くことになった私たちは、のっぽさんの支えで二階に上がった。
私は自室で母の運んできたお菓子を黙々と食べていた。小さな丸テーブルをはさんで、向かい側にはのっぽさんが窮屈そうに身体を丸めて座っていて、同じく黙々とお茶を飲んでいる。
「や、大和は怪我した私を送ってくれただけだから」
言い訳のようだと感じながら、でも事実なので私は言った。
「うん」
のっぽさんは静かに頷いて、
「でも」
と言った。
「あいつは早瀬さんに気付いたんだ」
悔しそうで、悲しそうなのっぽさんの顔。胸が変な痛み方をする。
「それは、大和は幼稚園のときからの幼馴染だから……。ずっと一緒に育ったから、たぶん気づいたんだよ。それだけだよ」
「それでも、ごめん。俺は早瀬さんを見失った」
のっぽさんはうな垂れて言った。私はそんなのっぽさんからふいと視線をそらした。
「そ、そりゃ、正直言うと、悲しかったよ。追いかけても追いかけても追いつかないし、気付いてくれないし。私、小さいから仕方ないと思うけどさ」
自分でもなんでなのか分からない。
でも。
気付いてくれなかったからじゃなくて、のっぽさんのあの悲しそうな顔を見たときが本当は一番悲しかったんだ。
今だってそんな顔されたら……。
「本当に、ごめん」
のっぽさんはそう言って、どこから取り出したのか、くたびれた白いハンカチを私に差し出した。
「謝らないでよ。そんな悲しそうな顔、しないでよ」
私はハンカチを掴んで、ぐしぐし涙を拭う。
「ごめん」
のっぽさんはそう言って私の頭に手を伸ばしてきた。驚く私の頭をのっぽさんはそっと撫でた。その手は震えていた。
私は戸惑いながらもされるがままになっていた。
なんでだろう。のっぽさんの手を嫌だとは思わなかった。
「俺……帰るね」
しばらくして、消え入りそうな声でそう言って立ち上がったのっぽさんの手を私は掴んでいた。
「ただいま」
「こんちは~」
私と大和の声に、母が慌てて出迎える。
「あらあら、大和君じゃない。こんにちは」
笑顔で大和に挨拶をした母は次に私を見て、目を見張った。
「夕璃、どうしたの、その格好! 目も腫らして! いったい何があったの?!」
「ちょっと、いろいろね」
「……いろいろ。来ているお客さまと関係あるのかしら」
「え?」
母の言葉の意味を図りかねたまま、リビングのドアを開けて。
私の心臓は止まりそうになった。
のっぽさんがお茶を飲んでいたのだ。
「早瀬さん」
私と大和を見て、のっぽさんが椅子を引いて立ちあがった。
「なにがあった?」
私と大和を交互に見て、のっぽさんが言った。
「な、なんか誤解してない!? 夕璃が泣いていて、鼻緒が切れていて! と、とにかく、俺はそんな状態の夕璃が危ないから送ってきただけだから!」
大和は早口にまくし立てて、一度言葉を切った。
「ただ、夕璃を泣かすのはやめて欲しいね。幼馴染みとして心配にはなるから。それじゃ、俺は帰るから」
大和はのっぽさんに向かってそう言うと、踵を返して玄関で靴を履いた。私は慌ててその大和の腕を掴んだ。
「ちょっと、こんな状況で帰るの?」
「俺は馬に蹴られて死んじまうのはやだからな。それじゃ、幸運を祈る! おばさん、お邪魔しました~」
大和は出て行ってしまった。
「あらあら……なんだか今日は忙しい日ね」
呟いた母を横目に、私はがっくりと肩を落とす。この状況、一体どうすればいいのだろう。
のっぽさんははぐれた私を心配して、住所を卒業アルバムで調べてうちに来たらしい。
とりあえず私の部屋に行くことになった私たちは、のっぽさんの支えで二階に上がった。
私は自室で母の運んできたお菓子を黙々と食べていた。小さな丸テーブルをはさんで、向かい側にはのっぽさんが窮屈そうに身体を丸めて座っていて、同じく黙々とお茶を飲んでいる。
「や、大和は怪我した私を送ってくれただけだから」
言い訳のようだと感じながら、でも事実なので私は言った。
「うん」
のっぽさんは静かに頷いて、
「でも」
と言った。
「あいつは早瀬さんに気付いたんだ」
悔しそうで、悲しそうなのっぽさんの顔。胸が変な痛み方をする。
「それは、大和は幼稚園のときからの幼馴染だから……。ずっと一緒に育ったから、たぶん気づいたんだよ。それだけだよ」
「それでも、ごめん。俺は早瀬さんを見失った」
のっぽさんはうな垂れて言った。私はそんなのっぽさんからふいと視線をそらした。
「そ、そりゃ、正直言うと、悲しかったよ。追いかけても追いかけても追いつかないし、気付いてくれないし。私、小さいから仕方ないと思うけどさ」
自分でもなんでなのか分からない。
でも。
気付いてくれなかったからじゃなくて、のっぽさんのあの悲しそうな顔を見たときが本当は一番悲しかったんだ。
今だってそんな顔されたら……。
「本当に、ごめん」
のっぽさんはそう言って、どこから取り出したのか、くたびれた白いハンカチを私に差し出した。
「謝らないでよ。そんな悲しそうな顔、しないでよ」
私はハンカチを掴んで、ぐしぐし涙を拭う。
「ごめん」
のっぽさんはそう言って私の頭に手を伸ばしてきた。驚く私の頭をのっぽさんはそっと撫でた。その手は震えていた。
私は戸惑いながらもされるがままになっていた。
なんでだろう。のっぽさんの手を嫌だとは思わなかった。
「俺……帰るね」
しばらくして、消え入りそうな声でそう言って立ち上がったのっぽさんの手を私は掴んでいた。