真っ黒のストレートの髪はショートボブのつもりだけど、おかっぱに見えなくもない。短い眉に低い鼻。小さな口。黒い瞳だけが大きい私。地下鉄のドア窓に映る自分と睨めっこして、思わず口をへの字に曲げた。

 それにしても袴姿の女子と男子の多いこと。
 同じ車両に乗っている他校の生徒や通勤の人たちが物珍しそうに私たちを眺めている。
 こんなだからお金持ちのお嬢様、お坊ちゃまが行く学校と思われるんだろうなあ。
 学校の最寄の駅で降りると、色とりどりの袴姿の生徒で視界がいっぱいになった。
 
 学校前の坂道を一生懸命上る。
 小さな私の一歩は他の生徒より小さくて、どんどん追い抜かされてしまう。いつものことだ。でも、この坂を上るのも今日で最後なんだと思うと一歩一歩が大切なものになるから不思議だ。

 淡い青空。春の風はほの甘い。
 この香りを私は知っている。別れと出会いの香り。私の嫌いな香り。出会いより別れの方が印象深いから。


「茜!」

 校門のそばで見知った顔を見つけて私は声をかけた。

「夕璃。おはよう」

 私の声に振り返った茜が笑顔を見せた。

「おはよう。お揃いだね、赤」
「ほんとだね」
「よく似合ってるよ」
「夕璃もね」
「そうかな? ありがとう」

 似合っていると言ってはもらったけれど、本当に似合っているのは茜の方だ、と捻くれた私は思ってしまう。茜はすらっと背が高く、黒くて長い髪の似合う、女の私から見ても素敵な女子だ。
 
「茜とは毎日いっぱいおしゃべりしたね。これから寂しくなるな」
「大丈夫だよ。電話すればいいし、これからも会えばいいでしょ?」
「うん、そうだよね」

 茜とはお別れじゃないよね?
 沈んだ気持ちを振り払うように顔を上げると、茜の彼氏の金井君が来るのが見えた。

「あ、茜。金井君だよ?」
「あ、うん」

 茜の頬がほんのり赤く染まった。息を弾ませてやってきた金井君は、

「おはようございます、早瀬先輩」

 と私に挨拶して、その後茜の方を向いた。

「茜先輩、おはようございます。いよいよ卒業ですね」
「うん」

 私は小さく茜に手を振ってその場を離れた。二人の邪魔になるのは嫌だし、金井君といるときの幸せそうな茜を見ると、嬉しくもあるけれど、同時にちょっぴり寂しさも感じちゃうから。私は茜をあんな顔にはできない。好きな人って凄いなと思う。