「え?」
のっぽさんは驚いたように私を見た。私は彼の目を真っ直ぐ見返した。
「どうして今帰っちゃうの?」
「え……」
「私、わけがわからないよ」
そう言った私の目をのっぽさんは戸惑うように見つめ返して、そして、再び座った。
のっぽさんは黙っている。
お茶だけが減っていった。
なんだか苦しいと思った。
でも、ここでのっぽさんを帰してはいけない気がした。
「なんでなにも言わないの?」
「なにから言えばいいかわからない、から」
のっぽさんは困ったような笑顔を浮かべていた。
あれ?
脳裏に浮かんだのは、橙色の図書室。
赤い夕陽に照らされて、塵がきらきらと光っていた。
嫌いだった本の独特の香りの立ち込める中。背の高い男子の長い影が伸びていて。
なんとも言えない安心感を私は感じていたんだ。
なんだろう。なんで今頃図書室を思い出したんだろう。
「えっと、じゃあ、私から訊いてもいい?」
私の言葉にのっぽさんは静かに頷いた。
「あのね、袖、いつから握ってたの?」
「袖?」
「うん、『俺が先』って、言ってたから」
私の言葉に、のっぽさんはちょっと考え込んで、
「ああ、それは」
思い出したように口を開く。
「先に好きになったって、いう意味」
「そうだったの?」
なんだか私はちょっと笑ってしまった。あまりにも言葉足らずで分らなかった。持田君も誤解したんじゃないかな。
持田君を思い出すと、少し胸が痛む。
お互いを好きになるって奇跡みたいなものなんじゃないかな。
私にはよくわからない好きという気持ち。そんな誰かが誰かを好きな気持ちが世界にはきっと溢れているのだろう。
でも、それが一致するとは限らないんだ。
ごめんなさい、持田君。
私は持田君に心の中で謝って、ふと思い出した。
あの時の持田君の顔。のっぽさんを知っているみたいだった。
なんだかさっきから、なにかがひっかかっている。
「百面相」
のっぽさんの笑いを含んだ声がして、私ははっと我に返った。
「えっと」
そういえばなんだか凄いことをさらりと言われたような。
そうだ! のっぽさん、私を好きって言った!
私は今さらかっと頬が熱くなるのを感じた。
そうだよね。私と一緒に帰ろうとしたんだ。私に好意があるからに違いない。なんとなく分かってはいたのだ。でもちゃんと言われてないから思い込みかもとも思っていた。
のっぽさんは、私のことが好き。
改めてその意味を噛みしめる。
のっぽさんの顔をまともに見られなくなって、私はテーブルの上ののっぽさんの手を見た。
どくんと心臓がはねた。
既視感。
やっぱり私はこの手を知っている。なんだかいろいろあって思い出せなかったけれど、この手は、本当は今日のように強引ではなくて。
「あっ!」
この手は!
私は反射的にのっぽさんの顔を見た。のっぽさんは、目を大きくして私を見返している。
「どう、したの?」
なんで思い出さなかったんだろう!
「く、楠、君? 楠君、だよね?」
「うん? そうだけど」
図書室によく来ていた背の高い男子。本の貸し出しカードに、この長い指で「楠圭吾」と書いていた。
それだけじゃない! この手は!
そう。後ろから伸びてきていた手だ。
「本を片付けるのを手伝ってくれてた、よね?」
楠君はふっと微笑んだ。
「うん」
そうだ、この笑顔だ。
のっぽさんは驚いたように私を見た。私は彼の目を真っ直ぐ見返した。
「どうして今帰っちゃうの?」
「え……」
「私、わけがわからないよ」
そう言った私の目をのっぽさんは戸惑うように見つめ返して、そして、再び座った。
のっぽさんは黙っている。
お茶だけが減っていった。
なんだか苦しいと思った。
でも、ここでのっぽさんを帰してはいけない気がした。
「なんでなにも言わないの?」
「なにから言えばいいかわからない、から」
のっぽさんは困ったような笑顔を浮かべていた。
あれ?
脳裏に浮かんだのは、橙色の図書室。
赤い夕陽に照らされて、塵がきらきらと光っていた。
嫌いだった本の独特の香りの立ち込める中。背の高い男子の長い影が伸びていて。
なんとも言えない安心感を私は感じていたんだ。
なんだろう。なんで今頃図書室を思い出したんだろう。
「えっと、じゃあ、私から訊いてもいい?」
私の言葉にのっぽさんは静かに頷いた。
「あのね、袖、いつから握ってたの?」
「袖?」
「うん、『俺が先』って、言ってたから」
私の言葉に、のっぽさんはちょっと考え込んで、
「ああ、それは」
思い出したように口を開く。
「先に好きになったって、いう意味」
「そうだったの?」
なんだか私はちょっと笑ってしまった。あまりにも言葉足らずで分らなかった。持田君も誤解したんじゃないかな。
持田君を思い出すと、少し胸が痛む。
お互いを好きになるって奇跡みたいなものなんじゃないかな。
私にはよくわからない好きという気持ち。そんな誰かが誰かを好きな気持ちが世界にはきっと溢れているのだろう。
でも、それが一致するとは限らないんだ。
ごめんなさい、持田君。
私は持田君に心の中で謝って、ふと思い出した。
あの時の持田君の顔。のっぽさんを知っているみたいだった。
なんだかさっきから、なにかがひっかかっている。
「百面相」
のっぽさんの笑いを含んだ声がして、私ははっと我に返った。
「えっと」
そういえばなんだか凄いことをさらりと言われたような。
そうだ! のっぽさん、私を好きって言った!
私は今さらかっと頬が熱くなるのを感じた。
そうだよね。私と一緒に帰ろうとしたんだ。私に好意があるからに違いない。なんとなく分かってはいたのだ。でもちゃんと言われてないから思い込みかもとも思っていた。
のっぽさんは、私のことが好き。
改めてその意味を噛みしめる。
のっぽさんの顔をまともに見られなくなって、私はテーブルの上ののっぽさんの手を見た。
どくんと心臓がはねた。
既視感。
やっぱり私はこの手を知っている。なんだかいろいろあって思い出せなかったけれど、この手は、本当は今日のように強引ではなくて。
「あっ!」
この手は!
私は反射的にのっぽさんの顔を見た。のっぽさんは、目を大きくして私を見返している。
「どう、したの?」
なんで思い出さなかったんだろう!
「く、楠、君? 楠君、だよね?」
「うん? そうだけど」
図書室によく来ていた背の高い男子。本の貸し出しカードに、この長い指で「楠圭吾」と書いていた。
それだけじゃない! この手は!
そう。後ろから伸びてきていた手だ。
「本を片付けるのを手伝ってくれてた、よね?」
楠君はふっと微笑んだ。
「うん」
そうだ、この笑顔だ。