「由那知ってるんだ、法律だと女の子は16歳、男の子は18歳で結婚できるんだよね」

「そうだよ、よく知ってるね」

「えへへっ、亜斗くんが教えてくれたっ! 亜斗くんいっぱい本読んでるからぜーったい由那より頭いいと思うんだ」


 だから、たまちゃんとか涙にぃには謝っても足りないね、と由那は巴に笑って見せた。それを見て巴は同意を示すように頷きながらゆっくりと手元のそれの包装をほどいていく。
 2本用意されたそれは、持ち手にピンクと青のリボンが結んであった。由那と巴の色である。誰が決めたとかそういうのはどうでもよくて、性別とかもこの際どうでもよくて、それはただその2本を1対だと示すだけのそういうものだった。


「これ、あーやでしょ」

「うん、猫ちゃんの説明書の中に一緒に入ってた。ルナっちも、きょーくんも、きっと知ってたよ」


 昼間のことを思い出す。なんでルナたちが由那にプレゼントを持ってきたか。それは今日が由那の16歳の誕生日だったからだ。


「お母さん、本当は明日来る予定だったの。けど、もういいんだ。そりゃ、由那はさ、いくらでも泣いてあげられるけど、お母さんにはもう涙の残量がないんだもん」


 由那の両親が泣かなくなったのはいつだったかと巴は逡巡する。そんなに回数を見たわけではないけど、それでもあの2人はこの病棟に足を運ぶ部外者としては泣かない人らである印象だ。
 他の家族はまだ、患者に希望を抱いてそれに縋っている。
 本人たちがとっくに捨てている、煌びやかな幻想に。


「……由那。愛してるよ。由那が好きだよ」

「由那も巴がだーいすき、だから、一緒に」


 死のうね。
 参加者の誰もいない深夜の病室の2人だけの結婚式で、これからの輝かしい未来を誓う口調で、由那はそう言って巴に抱き着いて軽くキスをした。
 病棟の、他のメンバーが融通してくれた“2本”。

 非力な由那でも持ちやすいよう、持ち手がシリコンのグリップになっていて、月明かりに反射して銀色に光っている。
 2人同時にそれを振り上げて、相手の心臓のあたりに突き立てて、切り裂いた。


「……ともえ、いただきます。ゆな、をどうぞ、めしあがれ」

「いただき、ます。ゆなも、残さず、たべてね」


 左手薬指におもちゃの指輪をはめて、最初に噛み千切ったのは、相手の心臓だった。