「彼女なんか1人もいない。ほんとだよ。情けないけどさ、俺は何年経っても桜に告白する勇気のなかったダメなやつなんだ」


「そんな……」


腕をほどき、少し離れると、桜は色んな感情が混ざって困惑してるような表情を浮かべて俺を見た。


「桜が受けるって聞いた高校に進学して、いつか必ず告白するって決めてたのに、それでも結局言えないままで。でも、もう、これが最後のチャンスだと思ってるから、俺も」


「嘘みたいだよ。今話してること全部」


「現実だよ、全部が本当のこと」


「……信じられないよ」


「さ、桜は……好きなやついんの?」


「えっ……それは……」


そのことについて、それ以上、桜が口を開くことはなかった。


俺は、桜を家まで送り届け、思った。
ようやく告白できたのに、結局何も進んでないって。


傘に雨粒が落ちる。
1秒1秒速くなる雨音に、「次はどうすればいい? 自分にいったい何ができるのか?」って、解決のための答えを急かされてる気がした。