「私もメロンソーダにしようかな。こんな真っ昼間から酒を飲むのは気が引けるからね。マスター、メロンソーダ2つ!」
 マスターは何も言わずに頷くと、メロンソーダを作り始めた。
 「ところでさ、ローリア、何であんなに強かったこと隠してたの?」
 夏芽は喉から言葉が出なかった。
 自分の体の特性を説明しても、信じてもらえる気がしなかったからだ。
 「いいんだよ、ローリア。あなたの言うことはなんでも信じてあげる。幼なじみの私だよ。だから、心配しないで」
 「あ、あの、私、朝しか力が発揮できなくて、その、、、しっかり寝ないと、力が出ないの。だから、夜になるにつれて、だんだんと力が弱くなって剣を持つのも辛くなるの。起きてすぐはとても元気なんだけど……」
 夏芽はどんな反応が返ってくるか心配だったが、意外にも、フリーニャは笑い出した。
 「なーるほどね。夜になると、だんだんと力が出なくなるんだ。昨日の夜は、あんなに剣を持つのもきつそうだったし、おっぱいも小さかったんだ。あはははは。おっかしい。おっ、てことは、今は結構大きいんじゃないの?」
 そう言うと、フリーニャは、夏芽の胸を揉みだした。
 夏芽は、フリーニャにいきなり胸を触られて、びっくりした。
 「あっ!」
 「うりうり~私、このバーに来ると、人格が豹変するんだぞ~!そりゃ、こりゃ」
 フリーニャは、酒を飲んでいる訳ではないのに、酔っ払ったエロじじいのように夏芽の体に触れてくる。
 「あなた、本当にフリーニャ?昨日会った人とは別人なんだけど……」
 「え~、いいじゃ~ん。死んだと思われた親友が生き返ったんだぞ!あなたの記憶はないかもしれないけど、もう一度、ローリアとここにこれて嬉しいからつい」
 そうか、ローリアもここに通っていたのか。と夏芽は悟った。
 中身は夏芽だが、ローリアともう一度バーで飲むことが出来て嬉しいんだろうなと思うと同時に、フリーニャと一緒に飲むローリアは、さぞ大変だっただろうな。と思い、椅子の下に置いている剣にそっと敬礼した。
 敬礼すると、夏芽に返事をするかのように、刃がぴかりと光った。
 すると、マスターが、出来たてのメロンソーダをカウンターの上に置いた。
 「メロンソーダ2つでごさいます」
 「ありがとう。マスター。これお代ですっ」
 フリーニャはその場でお金を支払った。
 そして、夏芽の方を見て口角をあげてにやりと笑った。
 「なんで私がここで酒を頼まなかったか分かる?」
 「さっき昼間から飲まないって言っていたじゃん」
 夏芽がそう言うと、フリーニャは指を立てて横に揺らした。
 「チッチッチッ。残念。正解は、今日剣士の飲み会があるからなのだ。」
 「あ、そう」
 「ローリアも強制参加でーす!」
 「え?」
 まさかの展開に夏芽はびっくりとした。
 別に剣士になる予定も未だ考えていなかったのに、いきなり剣士の会に呼ばれるなんて。
 「まあ、だいじょーぶだよ。みんなで、酒を飲むだけだから」
 「それ、何時から?」
 「ん?18時」
 「え~、私、そんな時間になったらもう力発揮できないんだけど」
 「安心して。戦うこととかないから、夜は弱いなんてバレないバレない。もし何かがあっても私がなんとかしたげるから」
 夏芽は、嫌な予感と不安しかなかったが、ここで断るとせっかく誘ってくれたフリーニャに悪いかと思い、心底嫌がったが、仕方なく参加することにした。
 「しょうがないなあ。行くよ!」
 「おお、それでこそ我が親友だ!」
 フリーニャは、夏芽の背中をバンと叩いて、メロンソーダを飲み干した。

 メロンソーダの氷が完璧に溶け、時間の経過を伝えた。
 「よし、そろそろ会場に向かうぞ。準備は良いかー?」
 「おー」
 正直乗り気じゃないが、仕方なく右腕を上げて乗ってますよ感を出し、そのまま店内を出た。
 ボロボロの階段をゆっくりと登り、商店街の中に戻ってきた。
 すでに、もう外は暗くなりかけのオレンジ色の空であることがアーケード越しでも分かった。
 その空の色と、周りに誰もいない景色を見ると昨日、死ぬ思いをして剣を持ち運んでいた記憶が蘇り、持っている剣がまた一段と重くなったのを感じた。
 この時間帯からだんだんと剣が重くなってくるのかと思うと、夏芽はちょっぴり憂鬱になった。
 もう既に剣が少し重く感じるようになり、力を入れて持っていると、それを見かねたフリーニャが、
 「大丈夫?重い?」
 と気遣ってくれた。
 本当に店を出ると、人格が変わるなと思い、ちょっとおもしろいなあと感じてフッと笑ってしまった。
 「あ、今私のこと笑ったでしょ?もういいもん!もってあげない!」
 くそ、笑わなければ良かった。
 「でも、今から行くところはそんなに遠くはないから大丈夫だよ。あとちょっと歩くだけでいいから。では、出発!」
 二人は、夏芽の家の反対側の商店街の出口に歩き出し、会場へと向かった。
 アーケードを出て、豪邸のある方向へと歩き、景色はたちまち西洋の住宅街になった。
 夏芽はかなり体の限界を迎えていたが、フリーニャは、その住宅街のうち、最も大きいドアが両開きの家の前で止まった。
 「ここよ」
 そう言うと、その家のドアを両手で軽々と開いて、中にずんずんと入っていった。
 外から見てもわかるように、その家は、とても広く、中には、銅像や壺、絵画などが、おしゃれに飾られていた。
 そして、一番奥のドアを両手で押して、中を見ると、そこには、ガタイのいい男女がたくさんいて、みんなが立って酒を飲んでいた。
 よくドラマなどで見るこの光景を目の当たりにして夏芽はとても興奮していた。
 先程まで嫌がっていた自分が嘘のように、楽しくなった。
 夏芽がその場の光景に見惚れていると、フリーニャは背中を押して、部屋の中に入れた。
 「ふふふ、楽しまなくっちゃね。とりあえず席を取って、私のパーティーメンバーを探そう」
 そして、二人は、部屋の奥の料理が並んでいるところの横にある席にレイピアと剣を置いて同じ剣士仲間に会いに行くことにした。
 剣を置いた夏芽は身軽になったが、それと同時に自分の体が既に剣士には見えないほど弱々しくなっていることを実感した。
 フリーニャはカップにワインをを注いで、仲間に会いに行った。
 夏芽もそれについて行った。
 人混みの中で二人は、はぐれないように手を繋いで、フリーニャの剣士仲間を探した。
 すると、フリーニャがいきなり手を挙げてそれを左右に揺らした。
 それと同時に夏芽は入口の近くから手が挙げられているのに気がついた。
 その方向へ二人は歩いていった。
 「お、みんなおつかれー!」
 いきなりフリーニャが、とある三人組に話しかけた。
 その反応を見るとすぐに、その人たちがパーティーメンバーだと分かった。
 三人は、全員若く見え、自分と同世代なのだろう。
 一人はとてもガタイの良い女で、もう一人は、小柄で髪の毛がぱっつんな女である。そして、最後の一人はお面を被ったツインテールの女だった。
 「おまたせー!みんなー」
 フリーニャがそう声をかけると、ガタイの良い女が、手を挙げて返事をした。
 「おうっ、フリーニャ、おつかれ…って、横にいるのは誰?」
 その女は、夏芽を指さして首を傾げた。
 「あ、紹介するね。この子はローリア。私とずーっとコンビで組んできたんだけど、いろいろあって記憶を失くしちゃったの。この子が気を失っている間にこのパーティーに入ったからみんなまだ知らなかったよね。この子、とても強いのよ!記憶を失くしてしまってからは、真価を発揮しづらくなってしまったけど、それでも、めちゃくちゃ強いのよ。邪鬼なんて一発でたおせるんだから!」
 夏芽はこんなに誇張して紹介されて、ちょっと恥ずかしかったが、嬉しかった。
 そして、ニヤけていると、三人組はいきなり笑い出し、夏芽の顔と体をまじまじと見つめた。
 そしてなんと、小柄でぱっつんの女が、夏芽の胸と腕を指さして高笑いをし始めた。
 「ははは、こんなにほっそい腕と貧乳の女が強いなんて……クククッ。あっ、嘲笑っているとかじゃないから。ほら、あの~意外だな~って思っちゃった。あ、でも、私たちのボスには敵わないでしょ流石に、ははは。」
 そして、ボスであるガタイの良い女と比べて、夏芽のことを馬鹿にし始めた。
 本人たちはバカにしていないと言っているが、絶対に自分のことを小馬鹿にしていると夏芽は確信した。
 夏芽は、寝起きの自分の姿を見せつけてやりたいと思ったが、ここでは眠るにも眠りようがない。
 すると、ガタイのいい女が、夏芽の前に出てきて
 「お前、ちょっと剣を持ってみろよ!」
 と言い、画面を被った女が腰につけていた剣を取って夏芽に持たせようとした。
 その剣はとても重そうだったので、夏芽は最初、首を振って持つのを拒否していたが、「なにぃ~?こんなのも構えられないの~?」と挑発され、仕方なく柄をつかんだ。
 その瞬間、いきなり女が剣から手を離し、夏芽が剣を支えられずに、床に突き刺さった。
 バリッという音が、剣が地面にめり込んだことを伝えていた。
 すると、女はとうとう腹を抱えて笑い出し、
 「お前、面白すぎるだろ!何が強いんだ、あはははは。流石フリーニャが連れてきた仲間だ。面白さでは最強だな!がははははは!」
 ともう隠すこと無く笑い始めた。
 夏芽はもう涙でいっぱいだったが、泣いたら負け、泣いたら負けとなんとか踏ん張って泣くのをこらえていた。
 なにやら危ない雰囲気になったなと感づいたフリーニャは、ガタイの良い女とツインテールの女をトイレに誘ったが、ガタイの良い女は、その場に残ると言い張り、とうとう夏芽とガタイの良い女、仮面をつけた女の子の三人だけなってしまった。
 夏芽の感じていた嫌な予感は的中し、三人でフリーニャたちを待っている時に、女は、夏芽に直接悪口を言った。
 「てかさ、何お前?なんでお前がこんなところにいんだよ?とっとと帰りな、雑魚が!お前みたいな剣士はいらないんだよ!帰れ!死ね!」
 夏芽は、フリーニャが帰ってくるまでなんとか我慢しようとしたが、しびれを切らした女は、なんと、夏芽の体を持ち上げてその会場から外へと投げ捨ててしまった。
 中から女の豪快な笑い声が聴こえた。
 外に追い出された夏芽は、その声を聞いてとうとう泣き出してしまった。
 そして、目をこすりながら、その豪邸から出て、暗い夜道を独りで歩き出した。
 しくしく、しくしく。
 その音は、真っ暗な夜空に響いていた。
 そうして、泣きながら歩いていると、小さな看板の裏に小さな何かが隠れていた。
 小さな動きだったが、夏芽の目にはそれがはっきりと写っていた。
 「ねえ、何?」
 夏芽が、怯えた声でそれ話しかけながら近づくと、その瞬間に、大きな影が目の前に現れた。
 「え?邪鬼?」
 すると、その影は、夏芽の体を包み、夏芽はその影に身を奪われるほどに激しく痙攣させられた。
 「うっ、やめて、痛いっ!」
 抵抗しようにも、剣がないのでどうしようもできない非常にまずい状況だった。 
 そして、その影がより強く夏芽を包み、夏芽はだんだんと体の力が抜けていった。
 「ああ、私、死ぬんだな」 
 そう確信した時、影の外から人の足が入り、その影を蹴り飛ばした。
 たちまち影は、夏芽を包むのを止めて何処かへ飛んでいってしまった。
 「し、死ぬかと思った……」
 夏芽が四つん這いになって呟くと、目の前に誰かの手の平が伸びてきた。
 上を見上げると、そこには、ショートヘアで、胸をかなり露出させた大胆な服を着た美人のお姉さんがいて、夏芽に優しく話しかけた。
 「大丈夫だったきみ…って!ローリアじゃない!あなた、生きてたのね!」