夏芽が上を向くと、そこには、羽を生やした邪鬼と戦っているフリーニャの姿があった。
 昨日見た姿とは違い、宙に舞いながら、カチューシャを付け、白のワンピースに、長い髪の毛をひらひらと揺らしながらレイピアを構えていた。
 しかし、その邪鬼は、フリーニャよりも三倍は大きく、顔は、THE・鬼という感じで、赤い槍を持っていた。
 「入ってきたら、だめよ!ローリア!ここに一度踏み入れたら、魔の結界で外に出られなくなるわよ!あなたはまだ本来の力を呼び覚ましていない。だから、邪鬼と応戦するなんて無理よ!ここは私一人に任せて逃げて!」
 「そ…そんな…私、、、ここでも戦力外なの………」
 もう一度自分の右手の剣を見た。
 さっきのローリアの声は、幻聴だったのだろうか…。
 剣は、ただ夏芽の顔を反射しているだけだった。
 そこに写っている姿は、初対面の戦友を助けに行くことのできない気弱な女子だった。
 「はやく、アーケードに戻って!今すぐ!ローリア!あなたをもう一度失いたくない!私がなんとかするんだ!あなたを、あなたを、もう失くさないために!!!うっ、うわああああ」
 夏芽にそう叫んだフリーニャだったが、叫んでいる途中に邪鬼の槍が、腰に当たり、地面に叩きつけられてしまった。
 バンッという鈍い音が響き渡る。
 その音は、夏芽の耳にもしっかりと聞こえた。
 「あ、あ、あ…………」
 フリーニャは、地面に横たわってしまったが、それでもレイピアをついて、立ち上がり、また、飛び上がった。
 その白いワンピースには、赤い液体が滲んでいた。
 「まだ、これから、私が相手よ!」
 しかし、どんどんフリーニャの動きは遅く、緩くなっていく。
 地上の鬼も、魔法陣の数を増やし、市民を追い込んでいた。
 「私、空も飛べないのに、本当にできるのかな……?」
 夏芽は、フリーニャの言ったことを真に受けて、未だに留まったまま、フリーニャの姿を見ているだけだった。
 そしてついに、カリーンという音とともに、フリーニャの右腕から、レイピアが落ちた。
 そのレイピアは、不運なことに魔法陣の上に落ち、回収が困難になってしまった。
 「あ、やばい……フリーニャ、負けちゃう……私に………できるの…?答えてよ!」
 夏芽は、涙目になって自分の剣に問いかけた。
 すると、また剣が光りだし、ローリアの声が聞こえた。
 「安心して!私が保証する!あなたは、フリーニャを助けられる!私の剣を使って負けたら許さないんだから!ふふふ」
 フリーニャは、その頃、邪鬼と拳で戦っていた。
 血にまみれたその姿を見て、夏芽は決心した。
 「ローリア、、、私、、、信じるよ!」
 夏芽は、覚悟を決めて、空き地に踏み込んだ。
 紫色の結界が空き地内を包む感覚。
 そうか、これのせいで出られないのか。
 だったら、私が決めてやる!!!

 夏芽は、入ってすぐに集中して右腕に力を込めた。
 剣に夏芽の魂がこもってゆく。
 ドクドクと剣に力が注がれていく。
 そして、自分とローリアと結ばれていく感覚。
 ローリアの心得た技は、私が受け継ぐ!
 そして、その剣を邪鬼のいる方向へと解き放った。

 「これでもくらえ!!快星雲!!」

 右手を振り切った夏芽は、自分でも緑光の輝きに気づいた。
 その緑光の波は、地上にいる邪鬼に向かって、一直線で進んでいく。
 バァァァンという音とともに、その邪鬼に波が当たる。
 そして、緑色の輝きは、煙となり、邪鬼とともに消えていった。
 決めた!私にも出来た!
 空では、夏芽の攻撃を見ていたのか、フリーニャも鬼も、固まって下を見ていた。
 「次は、あんただ!」
 夏芽は、空を飛んでいる鬼に剣の先を向けた。
 光が剣の先に灯される。
 その攻撃の威力を察したのか、フリーニャは、邪鬼から離れた。
 邪鬼もその場から離れようとしたが、体が動かない様子で、釘付けになっている。
 次は、白い光が球状になって、剣の先に溜まっていく。
 「フリーニャをいじめたお仕置きよ!覚悟しなさい!くらえー!!!!唯光線!」
 そして、夏芽は右腕の力を全身から放った。
 その光は、邪鬼に直撃する。
 ジュュュウという焦げた音が、空き地内に広まり、鬼は、灰になって地面にはらはらと散っていった。
 「た、倒した………私の力で!!やったあああ!!」
 魔法陣は解け、結界も剥がされていく。
 市民の人たちも、くたくたで、地面に倒れ込んでいた。
 夏芽が、笑顔で立ってると、フリーニャが地上に降りてきて、微笑みながらこう言った。
 「ありがとう、ローリア!おかえり、ローリア!」
 認められたんだ。私も。
 心が晴れやかになっていく。
 ローリアの笑い声が聞こえた気がした。