「……えっ?」

 入った途端、自分がどこかの庭にいることに驚く。

 しかも夜中のはずなのに、柔らかな陽差しの中にいる。

 いったいここは? とキョロキョロと辺りを見渡しているとどこからか、
「きた、きた」
「おいでなすった」
「お嫁様がいらした」
 と声が聞こえ、近づいてきた。

 お迎えがきた、とうさぎは緊張するが出てきた相手を見て、赤い目を見開いた。

(兎……?)

 白い兎がわらわらと出てきて、うさぎを囲い始めたのだ。

 一瞬、混乱したうさぎだったが、そういえば辻結(つじむずび)神社の神使は兎だったと思い出す。

 兎たちは、うさぎを見て驚いた様子だ。

「赤い目だ。わたしたちと同じ」
「白い髪だ。わたしたちと同じ」
「でも人だ」
「そうだね、人だ」
「不思議だ」
「そうだ、不思議だ」

 兎たちは一斉に喋りだして、うさぎはおたつくしかない。

(どうしよう、挨拶……)
 お喋りの止まらない兎たちにどう話しかけたらいいんだろう。
 もともと話すのが上手くないうさぎは、ただ戸惑う。

 わいわい話していた兎たちは突然我に返ったのか、一斉にうさぎを見上げていった。

「寝室に案内します」
「どうぞこちら」

 ぴょんぴょんと跳ねながらうさぎを案内してくれる。
 時々止まり、自分が付いてきているのか確認しながらの案内で、うさぎはほっこりする。

 大きな引き戸の玄関から入り、畳部屋に案内された。

 敷かれてあった真新しい布団に、うさぎはビックリする。

(……私は食べられるはずでは?)

 案内した兎に尋ねようとも、
「では、ここでお待ちください」
 と前足で障子を器用に閉められてしまった。

(もしかしたら、一夜のお情けのあとに食べられるのかしら?)

 この状況からしてそうに違いない。
 うさぎは布団の横に座って待つことにした。

 それにしても、布団が敷かれてあったのは想定外だった。
 覚悟はしていたが、その覚悟は食べられるほうの覚悟だ。

(まさか……まさか……ま、交わるの? か、神様と……?)

 想像しようとしても経験のないうさぎの想像は乏しいもので、頭を捻っても何も思いつかない。
 考えすぎて目がぐるぐるしてきたし、汗も掻いてきた。

「ど、どうしよう……神様と……本当に?」

 ぎゅう、と前で揃えた手を握りしめ、うつむく。
 急にやってきた事態の緊張で、足の痛みなんかどこかへいってしまった。

(落ち着いて。落ち着くのよ、もしかしたら化け物と呼ばれた私を慰めにしないで、そのまま食べてしまうかも)

 そうよ、だから落ち着こう――深呼吸をしたときだった。

 影が障子に映る。

 うさぎはそれを見て、鳥肌がたった。