「――さあ、これで事は落ち着いたであろう」

 朗々とした荒日佐彦の声に一同、姿勢を正す。

 威風堂々としながらも清らかに響く声音は、そこにいる者たちの悪しき念いを全て追い払ってしまうような力があった。
 本来の荒日佐彦自身の力はこの『厄』にも『禍』にもあたる人の悪しき念いを吸い取るものであるが、今は白花が傍にいる。
 白花が同時に浄化をするので結果、邪念を祓っていることになっていた。

「今回は稀なゆえ、もうこうして我が姿を見せることはない。今までのように宮司が私の声を聞き神託とせよ」
「はい」
 皆、頭を下げ頷く。

「宮司よ。明日の遷宮は予定通り行う。よろしく頼むぞ」
「心得ました」

 宮司の返事に荒日佐彦は満足そうに首肯し、白花に視線を投げる。
 白花も軽く頷くと、宮司に話しかけた。

「お父さん、もう姿を見せることはできないけれど……いつも見守っています」
「……ありがとう、白花……いや、白花様」
 宮司は顔を上げそう告げる。
 
 宮司の優しい笑み――。
 いつもいつも彼の包み込むような笑顔に支えられてきた。
 槙山家で己を恨まずに生きてこられたのは、彼がいたからだ。

「ありがとう、お父さん」

 そう礼を述べ、白花は荒日佐彦とともに姿を消した。