「――えっ!?」

 白花だけでなく、そこにいる全員が宮司に視線を向けた。

 宮司は決意したのか神妙な様子で佇んでいた。
「宮司様……貴方が? 私の本当の父……?」
「……御祭神様がそう仰るのであれば、そうなのでしょう」
 宮司は静かな口調に答える。

「お前……! 儂を謀ったのか?」
 勇蔵が怒りで顔を真っ赤にして、大声で宮司を責める。

「そうではございません。……私も御祭神様に言われるまでハッキリとわからなかったのです。流れ巫女であった鈴とこの村で出会ったのは、私が最初でした。酷く疲れ切った様子で足取りもおぼつかなく、今でも倒れそうなところを私が手を差し伸べました。それから体調が戻って『恩返し』と神社の手伝いをしてくれて、最初で最後の恋と申しましょうか。いつのまにか私と鈴は、心を通わす仲になっていったのです」
「き、貴様……神職にあるまじきことだぞ!」

「神職でも結婚は許されております。貴方様もそうでしょう? しかしながら、何も受け継ぐものを持っていない私に貴方様のように禁為だと騒ぐ者も出てくるだろうと、私はきっぱりと神職から離れ、鈴とこの村から去るつもりでおりました。……そこからは記憶にございましょう?」

 急に責めるような声音になった宮司に、勇蔵はバツが悪そうな表情になり、顔ごと逸らす。

「最後のお務めと、隣村の用事を済ませに一日留守をしている間、貴方様は神社にいた鈴を槙山家に無理矢理連れて行きになりました。……私が何度も訪問して彼女の安否を尋ねても『知らぬ存じぬ』と言い続けて、それから十ヶ月経ったある日に『槙山家に腹違いの娘が生まれた』と聞き、駆けつけた私にようやく貴方様はお話しになりましたよね? 『神社にいた流れ巫女に子を産ませた』と。『産後に出血が酷く亡くなった』と……!」

 堪えきれなくなったのか宮司は怒りを乗せ勇蔵を責める。
 涙を流しながら目を見開き、鬼気迫る姿だった。

「私と鈴は既に夫婦の契りを結んでおりましたが、妊娠の兆候はなかった。だから生まれた女児は勇蔵様のお子だと……。でも、『いや、あのとき妊娠の兆しが現われかっただけでは?』とも思いました。……鈴の生んだ娘は『白髪・赤目』と聞いてこの先、辛い目に遭うのはわかっているのに、ここを去るわけにはまいりませんでした。鈴の娘を見守るためにずっとずっと……こうして宮司を務めて……ぁあ……」

 宮司はここまで一気に喋ると、激しい息づかいを整えるように呼吸を繰り返し、すすり泣きながら白花を見つめた。

「私の……鈴と私の娘だったのですね……私の、娘……っ」

 涙を流す、目の前にいる好々爺は私の本当の父――