「勇、美月を屋敷へ連れて行け。これから込み入った話をするというのに、自己中心的な横やりばかり入れて邪魔にしかならん」
と勇蔵が言うも、勇も首を横に振る。
「こうなってしまっては僕一人では抑えきれません。――慶悟、手伝ってくれ」
そう後ろでニヤニヤと様子を眺めていた友人に声をかける。
「僕もか? いやだなぁ、引っかかれたら困る」
「一ヶ月後に結婚するんだろう? 慣れろ」
「僕はやっぱり白人の妹の方がいい」
様子を見ていて美月に不安を抱いたのか、それとも純粋に白花を気に入ったのか慶悟はぼやく。
慶悟の言葉を聞いた美月はますます拗らせ、ヒステリックな声を上げた。
「どうしてよーーーー! 生娘じゃなくたっていいって言ったじゃないの! そのほうが扱いやすいって!」
「今の君を見て、どうしたら扱いやすいと思えるの? それに、突然現れた神様っぽい美青年の方がいいんでしょう? さっき、妹と『妻』を交換しましょうって提案していたじゃないか。言われた通り君、支離滅裂だよ。その場限りの言い訳ばかりしてすぐに辻褄が合わなくて、ハッキリ言ってそう賢くないし」
「慶悟様の馬鹿! ――ねえ、聞いたでしょう?こうしてみんなが私を馬鹿にして虐めるんです! こんな所にいたくないんです!」
美月が体を大きく揺らしながら、勇の頬を引っ掻いた。
「――っ!」
一瞬、力が弱まったのを美月は見逃さず、勇の腕から離れ荒日佐彦の元へ駆け足で向かう。
着物姿とは思えない速さに全員、呆気に取られていた。
それは荒日佐彦もだった。
「どうか貴方の傍に妻として……!」
「我に触れるな!」
そう声を上げて下がったが、美月は荒日佐彦の胸に飛び込んでいく。
それは白花の目からは無邪気な幼女とも、主人を慕う動物のようにも思える光景だった。
上手く荒日佐彦の胸に飛び込んだ美月は「離さない」とばかりに彼に抱きつく。
「……愚かな女子め」
そう忌々しそうに告げる荒日佐彦の顔は、苦渋に満ちていた。
その表情に、白花はいつもの荒日佐彦ではないことに気づく。
「荒日佐彦様……?」
「放せ」「いや」と繰り返す荒日佐彦と美月の間に歩みよろうとした白花だったが、彼に手で止められてしまう。
「いかん、白花。来るでない」
「荒日佐彦様?」
白花から奪ったと思ったのか、ふふん、と得意げな顔を見せた美月だったが、次の荒日佐彦の言葉に自分は「間違った」と、ようやく気づいた。
「この女子は『禍』を生み、溜め込んでいる。……それから俺が禊ぎで落とすはずだった障りが、流れ込んでいく」
――流れ込んで? 美月に?
そう白花が頭の中で繰り返した時だった。
ざざざざざざざざざざざ
と槙山家の方角から、地を這い急いで逃げていく『何か』に皆、体を硬直させる。
あまりの速さに白花は残像しか見えなかった。
美月、慶悟、勇蔵に関してはそれさえも見えず、ただ何かがものすごい速さで逃げ、揺れる草木を不思議な面持ちで見つめている。
宮司と勇は白花と同じように残像は見えるらしい。
けれど感覚的に『何か』なのかわかったらしい。蒼白な顔をしていた。
それは白花もだ。『ここにいなくてはいけない、とても大事な何か』だったということは体が訴えている。
「あれは……、なんですか?」
白花は震えながら荒日佐彦に尋ねる。
「……『サチ』だ。『槙山家』にいた『サチ』だ」
荒日佐彦の言葉に勇は悔しそうに唇を噛み、勇蔵は驚愕した顔のまま硬直してしまった。
「……今までの美月様の身勝手な行動が積もり積もって、神に無作法に触れるという『禁為』を犯し、とうとう『幸』を司る精霊が逃げてしまわれた……」
宮司が残念そうに呟いた。
だが、それが終わりではなかった。
と勇蔵が言うも、勇も首を横に振る。
「こうなってしまっては僕一人では抑えきれません。――慶悟、手伝ってくれ」
そう後ろでニヤニヤと様子を眺めていた友人に声をかける。
「僕もか? いやだなぁ、引っかかれたら困る」
「一ヶ月後に結婚するんだろう? 慣れろ」
「僕はやっぱり白人の妹の方がいい」
様子を見ていて美月に不安を抱いたのか、それとも純粋に白花を気に入ったのか慶悟はぼやく。
慶悟の言葉を聞いた美月はますます拗らせ、ヒステリックな声を上げた。
「どうしてよーーーー! 生娘じゃなくたっていいって言ったじゃないの! そのほうが扱いやすいって!」
「今の君を見て、どうしたら扱いやすいと思えるの? それに、突然現れた神様っぽい美青年の方がいいんでしょう? さっき、妹と『妻』を交換しましょうって提案していたじゃないか。言われた通り君、支離滅裂だよ。その場限りの言い訳ばかりしてすぐに辻褄が合わなくて、ハッキリ言ってそう賢くないし」
「慶悟様の馬鹿! ――ねえ、聞いたでしょう?こうしてみんなが私を馬鹿にして虐めるんです! こんな所にいたくないんです!」
美月が体を大きく揺らしながら、勇の頬を引っ掻いた。
「――っ!」
一瞬、力が弱まったのを美月は見逃さず、勇の腕から離れ荒日佐彦の元へ駆け足で向かう。
着物姿とは思えない速さに全員、呆気に取られていた。
それは荒日佐彦もだった。
「どうか貴方の傍に妻として……!」
「我に触れるな!」
そう声を上げて下がったが、美月は荒日佐彦の胸に飛び込んでいく。
それは白花の目からは無邪気な幼女とも、主人を慕う動物のようにも思える光景だった。
上手く荒日佐彦の胸に飛び込んだ美月は「離さない」とばかりに彼に抱きつく。
「……愚かな女子め」
そう忌々しそうに告げる荒日佐彦の顔は、苦渋に満ちていた。
その表情に、白花はいつもの荒日佐彦ではないことに気づく。
「荒日佐彦様……?」
「放せ」「いや」と繰り返す荒日佐彦と美月の間に歩みよろうとした白花だったが、彼に手で止められてしまう。
「いかん、白花。来るでない」
「荒日佐彦様?」
白花から奪ったと思ったのか、ふふん、と得意げな顔を見せた美月だったが、次の荒日佐彦の言葉に自分は「間違った」と、ようやく気づいた。
「この女子は『禍』を生み、溜め込んでいる。……それから俺が禊ぎで落とすはずだった障りが、流れ込んでいく」
――流れ込んで? 美月に?
そう白花が頭の中で繰り返した時だった。
ざざざざざざざざざざざ
と槙山家の方角から、地を這い急いで逃げていく『何か』に皆、体を硬直させる。
あまりの速さに白花は残像しか見えなかった。
美月、慶悟、勇蔵に関してはそれさえも見えず、ただ何かがものすごい速さで逃げ、揺れる草木を不思議な面持ちで見つめている。
宮司と勇は白花と同じように残像は見えるらしい。
けれど感覚的に『何か』なのかわかったらしい。蒼白な顔をしていた。
それは白花もだ。『ここにいなくてはいけない、とても大事な何か』だったということは体が訴えている。
「あれは……、なんですか?」
白花は震えながら荒日佐彦に尋ねる。
「……『サチ』だ。『槙山家』にいた『サチ』だ」
荒日佐彦の言葉に勇は悔しそうに唇を噛み、勇蔵は驚愕した顔のまま硬直してしまった。
「……今までの美月様の身勝手な行動が積もり積もって、神に無作法に触れるという『禁為』を犯し、とうとう『幸』を司る精霊が逃げてしまわれた……」
宮司が残念そうに呟いた。
だが、それが終わりではなかった。