「不向きとは? じゃあ、美月は僕に相応しいと? あはは! 笑っちゃうね。とうの昔に他の男に操を捧げた女が鷹司家の嫁に相応しいと?」

 慶悟の発言に勇蔵と勇は美月を睨む。
 美月は、
「違うの! それは無理矢理で……!」
 と言い訳するがすぐに父の平手が飛んできて、母に泣きつく。

「お前がしっかり美月を見ていないからだぞ!」
「あなた! 美月の言うことは本当です! 美月が自ら体を開いたわけではありません! そうよね? 美月? だ、だから隠しておいたのです!」

 美月は泣きべそをかきながら言葉を続ける。
「何が起きたのかわからなくて……それで、私お母さまに相談して……隠しておきましょうって……。本意ではありません!」
「では、誰に奪われたのだ?」
「に、庭師の俊司です……」
「虎之助の息子か。首だな。嫁入り前の娘を……手込めにしおって」
 
 苦々しく呟く父に慶悟は首を傾げた。
「あれ? もっといるよね? 下男の剛とか、勘助とか、あと……料理人の佐輔とか。数人で楽しんでいたという報告もあったけれど?」

「お前……っ、このたわけが!」
 夫の激高にか、それとも宝珠と可愛がっていた娘が隠れて男と遊んでいた事実を聞いたせいか、母はその場で気を失ってしまった。

「屋敷へ連れていけ。お前たちが傷つけた神社の者たちもだ。介抱するんだ」
 勇蔵は下男たちに言いつける。

 それから、震え上がって泣いている美月を慶悟の前に引っ張っていくと、頭を下げた。

「申し訳ない。親の教育が行き届いていなかった。傷物を鷹司家に出すわけにはいかない」
「……いやぁ……、これからいい子になるからぁ、いい妻になるからぁ……慶悟様のお嫁さんにしてぇ……」
 真摯に謝罪する勇蔵の横で美月は、べそをかきながら嫌々と駄々をこねている。

「あのさぁ。僕は美月さんが、生娘であろうとがなかろうと関係ないんだけれど」
 慶悟は帽子を外し、髪を掻き上げながらひょうひょうと言い放つ。
「むしろ、何も知らない生娘を相手にするより、知ってて自分から動いてくれる方がありがたいね」

 なんて言い出した慶悟に、勇は思いっきり溜め息を吐いている。
 美月は一瞬にして泣き止み、明るい表情で慶悟に迫っていく。

「じゃあ、じゃあ! 私、このまま慶悟様の妻になっていいのね?」
「まあ、いいけれど、僕としては――そっちの白人の妹さんをもらいうけたいね。そっちも僕にくれるなら美月さんを妻に迎えてもいい」

 慶悟の言葉に、一斉に白花の方に顔を向ける。
 勇蔵は苦々しい顔で。
 美月は憎々しげに睨み付けて。
 勇はなんとも言えない顔をしていた。

 三者三様の表情と、慶悟の言葉に一番困惑したのは白花本人だ。

 どうしてそんな話になっているのか。
 けれど――白花の心は既に荒日佐彦のものだ。

「慶悟様、私は既に神の妻。貴方の元へは参りません」
 はっきりと言い切る。

「神って、宮司のこと?」
 慶悟はわからないと言うように首を傾げてみせる。

「君は宮司の元で、妻として暮らしていたんじゃないのか?」
「宮司様とは一年前、私の神への嫁入り以来会ってはおりません。その間、御祭神である荒日佐彦神の元で暮らしておりました。……それは事実です」

「ううん? なんだか超常現象的な話になってきたなぁ。一年間神隠しに遭っていたってことになるけれど? それは事実?」
 尋ねてきた慶悟に勇は頷いた。
「一年間、行方しれずだった。宮司が『鳥居を潜ったら消えた』と話していて嘘か真か検証しなかった。その女は……妹は元々、父が百年の遷宮のさいに行われる『贄』として育ったのだ。だが認識を違えたようだ。『贄』ではなく『神の花嫁』として妹は向際の世界へ行ったのだろう」

「勇、それ冗談? 頭、おかしくなってないよね?」
「……常日頃、僕が人ならざるものが視えると話しているだろう? 君だって真剣に僕の話を聞いていたじゃないか」
「ああ……そうだよね。君って先祖が神職だからそういうの、血筋で視えるとかって。いやぁ、本当だったんだ!」

「信じていなかったのか」と勇は小さい声でぼやき、話を紡いでいく。