「勇さん、慶悟様……こ、これはその……あ、あの人は? どうしたのかしら?」

 義母が慌てて話題を逸らそうとする。
『あの人』――父だろうと容易に予想できる。

「父さんはあとからやってくる。私たちは駆け足できたんだ。……これは一体どういうことなんです? 母さん」
 傷ついている禰宜と巫女。そして気を失って倒れている宮司の怪我を見て、母にキツく問いかける。

 そして――砂埃を被っても尚も美しい白髪赤目の女性を見て、大きく目を開いた。

「……お前は!? 何故、こんなところに?」

 白花は埃を叩き居住まいを正すと、勇と慶悟に対し頭を下げる。
「おひさしゅうございます。私が出ないと宮司様を殺しかねない様子でしたので、姿を現したまでです」

 何? と勇は唸ると、胡乱の目で美月と母を見つめた。

「違います! 私と母は宮司の悪行を問い詰めていただけです! 本当よ! 慶悟様!」
 真っ先に言い訳して慶悟にすがりついたのは美月だった。
 今まで鬼の顔だったのに、可憐な表情で涙まで浮かべはじめた。

「一年前に宮司は私の妹に恋慕して遷宮の際に『神の贄』が必要と隠してしまいました。それから妹を想い憂いてましたが、私はまもなく貴方の元へ嫁ぎます。だから明日遷宮を行う今が妹を取り返す絶好の機会だと母と相談して行動を起こしたのです」

「へぇ。じゃあこの娘は勇と美月の妹ってこと?」

 慶悟は、「妹」という部分だけ聞いて、それ以外の美月の訴えをまともに聞いていないようだった。

 すがりついてきた美月を引き剥がし、いそいそと白花の元へやってきた。
 そして、しげしげと珍獣でも見るように白花を下から上まで眺める。

「『白人(しらひと)』だ。初めて見たよ。この子の目は赤いんだね。ねえ君、陽に当たって大丈夫なの? 肌は火傷したり水ぶくれを起こしたりは?」
「……? 平気ですけれど……」
 急に現れて馴れ馴れしく近づいて話しかけてきた若者に、白花は警戒しつつも、問いに答えた。

「へぇ!! 今まで聞いて事がないよ! 勇、どうしてこんな珍しい妹を隠していたんだい? これは医学界にとって、すごい発見だよ?」
「……僕たちは、医学の研究者ではないだろう?」
 勇は溜め息をつきながら答えた。

「遺伝子の問題かな?」
 自分で尋ねておきながら勇の言葉に碌に応えず、瞳をキラキラさせながら白花の体をあちこち、ジィッと見つめる慶悟の動きは忙しない。

 物珍しい玩具に遭遇して喜んでいる子供のようだ。