「……駄目よ、駄目……っ。美月、思い直して! 今すぐ止めて!でないと――っ」

 パァンという音とともに白花の左頬に痛みが走った。

「あんたに私の名前を呼ぶ権利を与えていないわよ。前のように顔を下に向いてなさいよ。『醜い化け物』が! 化け物は化け物らしくしていなさい!」

『化け物』――過去に呼ばれていたあだ名に白花の体が一瞬硬直した。

 私は醜い。
 目も赤いし髪も老人のように白い。化け物だ。
 急速に心が萎んでいくのがわかる。

(私は、醜い……)
 そう心の中で呟く。


 ――違います!

 
 突然、頭の中から声が響き驚いて辺りを見渡す。

 ――白花様! どうして白花、と荒日佐彦様がおつけになったのか思い出して!

「……アカリ?」
 大床にアカリがいる。
 必死になって自分に向かって叫んでいる。

 その周りには神使の兎たちがいる。
 ああ私を助けようとして集まってくれたんだわ。
 でも、結界で出ては行けないのね。

 ――白花様は、荒日佐彦様の立派な妻です! どうか自分を誇りに思ってください!

「荒日佐彦様……」

 ――お前にぴったりな名前だ。白花。白く清らかな、俺の美しい一輪の花――

 愛されている。
 昔の、誰にも必要とされていなくて小さくなって、泣いてばかりの私じゃない!

「……化け物じゃない」
「あっ?」
「私の名前は白花。御祭神である荒日佐彦様にそう名付けられました。それに、この髪も目も母の一族に現れるもの。決して化け物として生まれたわけではありません!」

 真っ直ぐに美月を、義母を見つめる。
 そう、自分は荒日佐彦様の妻だ。
 愛してくれる彼のために、そして自分のために、強くならなくては!

「……な、何よ……っ、荒日佐彦? あんた虐められすぎて頭、おかしくなったんでしょ? 神様が見えるとか妻になったとか、馬鹿じゃない?」
「美月にはみえないだけよ」

 白花の言葉に美月はカッとして、また右手を振りかざした――その時だった。


「美月! 何をしている!」

 怒りを含んだ声に美月の手が止まった。

 義母は怒鳴り込んできた相手を見て途端、震えだす。
 駆け足でやってきたのは、勇と慶悟だった。