「じゃあ、この棒ではなくてもっと、そう鉈の方がいいわね。薪割りの鉈がいいわ」
と、義母が下男に命令するが、彼の方は怖じ気づいたのか口を震わせたままかぶりを振った。

「お、奥様……それはまずい、まずいですよ……。オレたちゃあ殺しはごめんだぁ」

「……意気地のない。もうお前たちは私たちの共犯者なんですよ? このままでいたら必ずお縄になりましょう。……まあわたくしたちは主人と鷹司のお力でどうにかなりますけれど……ねぇ? 美月」
「お母さまの言うとおりよ。もうお前たちも逃げられない……それに、そうねぇ。ご褒美にまた『以前のような遊び』をしても構わないわ」

「お嬢様……」
 髪飾りを外し、下ろした髪を櫛で整えながら美月は妖艶に告げた。

 その様子はまさに妖女と呼ぶに相応しい禍々しい美しさがあって、下男たちは生唾を飲み込む。
 もうそれで承諾を得たようなものだ。

 下男たちは意気揚々として薪の保管場所へ向かった。

「美月、貴女……まさかもう……」
 母の疑わしいと見つめてきた視線に、美月は含んだ笑いをする。

「慶悟様は純粋なお坊ちゃまだもの。初夜におぼこのふりをすれば、わかるはずないわ」
「あのような下賤な者に……貴女という人は……」

 呆れた顔の母に美月は笑う。
「身分は下でも、逞しいのよ。体付きも。そしてお顔がいいじゃない?私の命じるがままに楽しませてくれるもの」

 さて、と美月は砂まみれになった白花を見下ろす。
「あんたは槙山家の汚点なのよ。だからいては存在そのものが困るの。さっさと土塊にしてあげる」
 と目を細めた。

 ――悪鬼だ。

 白花はそう美月を見上げた。

 『悪』の塊だ。

 倒れた三日月のように細める目は、邪悪で染まって。
 口角だけ上がる唇は血を吸ったように赤い。

(どうして気づかなかったの?)

 私がいなかった一年で様変わりした?

 ――禍事(まがいこと)の相――

 というのは、美月が起こす行動のことで

『禍』というのは、美月そのもの――