頭の中で警鐘が鳴る。

 美月は知らず歯ぎしりをしていた。

 父と兄が二人で出かけている間に事を起こした。
 二人はなんだかんだと穏健派だ。
 特に勇は現代の医療や科学に経済の発展を自分よりその目で見ているというのに、仏神の信仰を否定しない。

「それも国を作った一部で全てを否定することは、自分や先祖までも否定することになる」

 と腹が立つほど平静で淡々としている。

 しかし、妹である自分が何か行動を起こそうとすると必ず反対をするのだ。
(女だと思って下に見て馬鹿にしているのよ、きっと)

 うさぎのことも腹立たしいが、勇の自分に対する態度だって気にくわない。
 いつもいつも、
「あの女に突っかかるな」
「いないものだと思って放っておけ」
 と勇が言えば言うほど、美月はうさぎを追い詰めた。

 うさぎも大嫌いだけれど、自分の言い分を否定し、行動を制限させようとする勇も嫌い。

 けれど長兄だからいずれ槙山家を継ぐ次期当主だ。
 自分が好き勝手にして怒りを買ったら追い出されてしまうかもしれない。
 だから、我慢してきた。

(結婚すれば、慶悟様の妻になれば位は私の方が上になる……。そうしたらもう兄様の言うことなんて聞かなくて良い。ううん、顎で使ってやれる!)

 慶悟は勇の親友で、その縁で自分は彼と結婚できるのだということなど美月の頭の中からはすっぽり抜けていた。

 美月は侮蔑をこめた笑みを浮かべながら、白花に近づく。
「この売女が! いい着物なんか着て……! 大方、宮司を色惚けさせて贅沢をしていたんでしょ!?」

 白花が避けるより早く美月の手が伸び、彼女の髪を掴むと引っ張り倒した。
「きゃっ!?」
 前屈みで倒れた白花を、美月は足で何度も踏み続ける。

「おやめください! うさぎは……白花様は御祭神の花嫁ですぞ!」
 禰宜や巫女たちは白花の出現で我に返ったのか、皆で必死に白花の体に覆い被さり、護る。

「皆さんも逃げて……っ、怪我しているではありませんか!」
 そう促すが禰宜も巫女たちも頑として聞かず、白花と宮司の上に覆い被さり暴行を受けた。

「いいえ、我々は神にお仕えする者です!」
「宮司様と御祭神様の花嫁をお守りしなくては!」

「……あなたたち、ごめんなさい」
 禰宜と巫女、そして宮司の気持ちを思うと切なくて白花の目から涙が零れてくる。

「もう、もう止めて! 美月もお義母様も……! 私がここから去ればいいんでしょう? 出ていくから止めて!」