突然現れた白花に、そこにいた全員が驚き呆然としている。

「……うさぎ、いったいどこから?」

 宮司が弱々しい口調で尋ねてきた。
 もう立ち上がれない様子で地べたに這いつくばったままだ。

 白花は真っ直ぐに宮司に近づくと、彼の頭を支え起こした。
「宮司様、わたしのためにこんな目に……」
「よい……。……幸せなのか?」
「はい。今は白花と呼ばれております」
「……よかった」

 宮司は安堵したのか目を閉じ、気を失ってしまった。
 
 白花は禰宜や巫女たちに宮司を任せ、真っ直ぐに美月と義母を見据えた。

「私を神に捧げたのは、槙山家の習わしのはず。そして私はその通りに行動をした。――なのにどうしてそれを疑い、このような乱暴を働かせたんです?」

 白花の問いに、ふん、と美月の口から小馬鹿にした声が出た。

「何を言っているのよ。今まで隠れていたのでしょう? それをまあ『神に捧げられた』とよく言うわ」

 さっさと縛り上げて! と下男たちに告げる。

「私は逃げたりしません。でも、あなたがたが心配なら――」

 縛れ、と言う意味を込めて両手を差し出す。
 下男たちはいきなり何もないところからうさぎと呼ばれていた女が現れたこと、そしてその潔さに躊躇っていた。

 今の彼女を見て躊躇うのは当たり前だろう。
 槙山家にいた頃は使用人同然の扱い、というよりそれより酷かった。
 着物は何度も手直しして生地もボロボロで、髪など手入れもしていない。
 いつも頭巾を被って白い髪を隠し、赤い目を見せないよう下を向いてオドオドとしていた。

 そうしないと、「気味が悪いから近づくな」と使用人たちにも叱咤されたからだ。

 けれど――
 今、目の前にいるのは清廉さが体から滲み出ている、高貴で美しい女性だ。
 しかも神々しさまであるように見える。
 
 それは美月や義母も気づいていた。
 一年前のうさぎと違う、と。

(あ、あんなボロボロで醜い女が……?)

 艶のない汚れた綿のようだった白い髪は、絹とか銀を思わせる艶やかなものとなり、赤い瞳は薄く紅を付けた唇と相まってよく映える。

 着ている着物は萌黄色と金糸で、陽に当たる春に芽吹いた葉がついた枝を表現した透かしが入っている。

 その着物の上から透ける白羽織を着ていた。

 その佇まいは思わず見惚れてしまうほどだ。

 ――この美しさは危険だ。