うさぎの生家であるこの槙山家は地主であり、たくさんの田畑を所有している富豪で権宮司も兼任していた。

 ある日、村の氏神である辻結神社の宮司が父の元へやってきた。
 長い間話し込んでいたようだが、うさぎは離れにある蔵に住んでいて、家族の住む本屋敷に行くことなんて数えるほどしかない。
 
 何が話し合われたのか知るよしもなかった。

 なのに、その日の夕餉に突然本屋敷に呼ばれ、家族とともに食事を摂ることになった。

 初めての家族との食事にうさぎは喜ぶより、「もし躾けで叩かれたら」や「容姿をからかわれたら」という恐怖の方が大きかった。

 何より――なにか嫌な予感もあった。

兄妹たちの末席、しかも離れた壁際に自分の膳が置かれてあるのを見て、相変わらずの扱いに内心ホッとしたのは確かだ。
 食事の内容が他の家族と同じなのは驚いたが。

 誰にも話しかけられないまま夕餉は進み、うさぎもうつむき加減で誰にも目を合わせないよう食事をする。

「お父様、どうして夕食にうさぎを呼んだの?」
 姉の美月が苛立ちを隠さずに、父の勇蔵に抗議をする。

「美月、黙れ。父さんに考えがあってのことだ」
 それを叱りつけたのは兄の(いさむ)だった。

 しかし、それも気に入らないのか美月はますます声を荒げた。

「この子がいると食事が美味しくないのよ! 渡り巫女なんていう下賤な女の血を引く女がいたら空気が穢れて嫌だわ。うさぎ」

 急に名前を呼ばれ、うさぎは顔を上げた。
「あんた、廊下で食べなさいよ。その目も髪も気持ち悪くて食欲をなくすの、この化け物!」

 ――化け物。

 いつも言われている言葉だ。得に美月は好んでこの言葉を使いうさぎを貶める。