それから白花はアカリと着物に仕立てる反物を選ぶ。
 帯や半襟に帯締めに簪や帯留め、そして小物の数々。

 アカリはそれを文字や絵に描いて起こし、白花に見せてくれる。
 特に洋装の絵は素晴らしくて白花は目を丸くさせた。

「それと念のために白衣と袴、千早も用意しておきましょう。水干や裳も必要かしら? 荒日佐彦様に聞いてみますね。袴のお色は紅、青葉、黒曜、と三色揃えておけばいいでしょう」
「……こんなにたくさん仕立てても、着る機会ないような気がするわ。考えてみたら神の花嫁になったのですから、巫女服である白衣と袴だけでいいのではないかしら?」

 袴の色だけでも三色、ようするに三枚も仕立てる。
 それだけで十分すぎると白花はアカリに提案する。

 そんな白花にアカリは鼻息を荒くした。
「何を仰いますか! こうして調えてくれた物を使わないでどうするんです。これは『奉っている神を大切にしている証』として荒日佐彦様や妻となった白花様を装うために村人たちが準備してくださったのです。大切に使うことこそが、村人たちの信仰に報いることなのですよ?」
「……そうでしょうか」

 アカリの言葉に白花は自信がない。
 荒日佐彦は正真正銘『神』だが、自分は村で厄介者扱いされていた人間だ。
 荒日佐彦に対して恐れ敬う気持ちはあっても、自分にない者のほうが多いだろう。
 白花の心が廃れて性根が曲がってしまっていればきっと、途中で逃げ出し行方をくらましいただろう。

 けれど白花はできなかった。
 どんなに蔑まれて虐げられても、村人たちや家族である父や義母、兄に姉を見捨てることができなかった。
 自分の行い一つで村に不幸が起きてしまうのを良しとしなかったから。

 結果――自分はこうして『神の花嫁』として異界で大切にされ、荒日佐彦に愛されている。

 思いがけない幸せに酔い、毎日を送っているが村では今でも「厄介払いができて安心した」と喜んでいる者が多いだろう。
 その者たちがこうした素晴らしい献上品を神に捧げることを良しとするだろうか?

 俯いて悶々と考えている白花の手を、アカリが包み込むように握ってきた。
「白花様、案ずることはありませんよ。あなた様は荒日佐彦神様からご寵愛をいただいている唯一のお方。神の妻となった白花様を蔑む者などいやしません」

「アカリ……ありがとう。でも、このような支度を用意してくださった方たちの苦労を考えると申し訳なくて」
「この献上品は人間の世界では、終わりましたら業者に売り渡すか下賜します。神に捧げた物は『縁起がよい』『神の力が宿る』と喜んで高値で買い取りますからご心配に及びません」
「そうなのね、よかった……」

 ホッと胸を撫で下ろしている白花に、アカリは言葉を続ける。
「もし、白花様を蔑むような者がおりましたら、荒日佐彦さまと私たち神使が黙っちゃあおりませんので!」
「えっ?」
「バチの一つや二つ、落ちるのは覚悟してもらいましょう!」

 アカリのとんでもない台詞に冷や汗を掻いた白花だった。