「さて」
と、徐に荒日佐彦が声を上げ、ゆるりと立ち上がった。

「村とその付近の地域の見回りをしてくる。……どうも騒がしい」
「白花様が嫁入りのあとは、ここ一帯穏やかで静かでしたのに、どこからか『厄』がきましたか?」
 とアカリ。

「『厄』が……?」
 白花が尋ねる。

 荒日佐彦に以前話していた『厄災』
 この地に降りかかる不幸な出来事のことを総じて『厄災』と呼んでいる。

 厳密にわけて言えば、
『厄』は「わざわい」と呼び、人々が持つ生まれながらの業が引き起こす苦しみのこと。
『災』も「わざわい」と読めるが「さい」と読んでいる。自然が地上や人々に起こす悪い出来事。
『厄』ということは人が引き起こしているということになる。

「村人たちに何かあったのでしょうか?」
「いや、それはまだわからん。『(まが)』になる前に俺の体にこびりつけばいいのだ」
「お気を付けて」
 白花も立ち上がり、出入り口までついていく。

「すまぬが『厄災』が俺の身に付いたらまた浄化してくれ」
「勿論です」

 どちらともなく、唇を重ね合う。

「では行ってくる」
「いってらっしゃいませ」

 荒日佐彦の笑顔を見送った白花は、彼の様子を見て安堵した。

 ――そんな酷い『厄』ではないのだろう、と。