「そうそう、それにですね。神様にもお気に入りの服装というものがございまして、普段お召しにならないようなご衣装と交換できるときもあるんです。十二単とか大陸から渡ってきた唐服を元にしたものとか」
「白花が着たらさぞかし映えよう。想像して今から楽しみになってきた」

 アカリの話に、荒日佐彦が笑顔で本当に楽しそうに言うのを見て、白花は申し訳なさそうに眉尻を下げる。

「……そのような華やかなご衣装なんて、私に似合うでしょうか……? それに、その、お恥ずかしながら十二単とか唐服などとか……どんなものなのか、想像がつかなくて」

 自分はなんて物知らずなのか。白花は恥ずかしくなって俯く。
 物心ついた頃から使用人と同じように朝から晩まで働いて、本を読んだり、読み書きの勉強をしたりなんてさせてもらえなかった。

 着ている着物も小さくなると頭を下げていらない布をもらって何度も継ぎ足して、それでも丈が足りなくて道を歩くとよく馬鹿にされた。

(……そういえば宮司様がよく、生地をくださったなぁ)
 父と会うときには「槙山家にいる者なのだから、きちんとした身なりにしてあげなさい」と話してくれるようで、そのときは渋々美月のお下がりが回ってきた。

 必ず美月に突き飛ばされたり、わざわざ汚したり切ったりして渡されることもしばしばだったけれど。

「白花、お前は謙虚すぎる。おごることなく控えめで慎ましい性格は好ましいが、もっと自分に自信をもっていい」
「荒日佐彦様……」
 
 荒日佐彦の手が優しく白花の顎に触れ、愛しそうに撫でてくる。
「瓜実の輪郭に絹のような肌。そして赤珊瑚のような瞳は、まこと至高の宝石のようだ。お前の髪は丁寧に精錬した絹糸のように輝いている。何より俺を魅了して離さないのは、何度も哀しい目に遭っても清廉とした心をこわさなかった白花の生き様だ」
「そ、そんな、あの……褒めすぎです!」
 白花は顔を真っ赤にし、両手で顔を隠した。

 荒日佐彦はことあるごとに白花を褒めるし、神使たちに自慢する。
 こういうとき、褒められることも自慢されることも慣れていない白花は、恥ずかしさに消えてしまいたくなる。

「そんなに褒めないでください。恥ずかしいです」
と懇願したことがあったが荒日佐彦が、この世の終わりだというような絶望的な顔をしたので、それ以上言えなくなってしまった白花だった。

 自分の全てを肯定して受け入れてくれる荒日佐彦。
 そしてアカリに神使の兎たち。
 この世界で白花は受けてきた心の傷を癒やしている。
 そう過ごしていくうちに、不思議と考え方が前向きになっていく。

 存在を認められるという幸せ。
 愛される幸せ。
 そして愛する幸せ。

「……そうですね。頂けたら、是非着てみたいわ」
「そうしましょう、そうしましょう」

 同意したアカリが、正座のままピョンピョン跳ねる。
 その様子に白花は、はにかむように笑う。

 二人の姿を見守る荒日佐彦の眼差し。

 幸せだ――このままこの時を過ごせたらと白花は思う。