「ありがとうございます、荒日佐彦様。私、母に疎んじられて生まれたのではなかった……」

 母が消えた場所を、白花は見つめながら荒日佐彦に礼を言った。

「小さい頃、今の継母から冷たくあしらわれて、使用人と同じ扱いを、いえ、それ以上の扱いを受けて……とても不思議でした。当時は継母が私の本当の母親だと思っていたので、どうして姉の美月と違う扱いを受けるのか。『この髪と目のせいか』と思い悩み、思い切って尋ねたことがあるんです。『どうしてお母様は私に冷たくするの?この髪と目の色のせい?』って。そうしたら……叩かれました。憎悪の目で私は睨まれました。『お前はどこぞの、出自のしれない流れ巫女の子よ。わたくしの子ではありません』と。とても衝撃で哀しくて、でも勇気をだして『私の本当のお母さんは?どこにいったの?』とも聞きました。そうしたら『お前を産むのを嫌がりながら産んで死んでいきましたよ。男に身を任せながら路銀を稼がなくてはならないのに、子を身籠もってしまいましたからね。稼ぎにもならないと、文句を言い、産むまでずうずうしくも槙山家に居ついて世話までしてもらってそうして死んでいきましたよ』と……笑いながら言いました。……でも、そうじゃなかった。本当は違った。母は私を愛してくれていて、愛しているからこそ産んでくださった……それがとても嬉しい……」

 白花の目から何度も涙が零れる。荒日佐彦はそれを手で拭ってくれる。

「泣くな」
「これは哀しみの涙ではありません。嬉しくて泣いているんです」

 そう言って白花は荒日佐彦の方に振り返り、自ら彼の胸に飛び込んでいった。
「私は、貴方にどうご恩を返したらいいのでしょう?」
「そのままでいい。白花は辛い状況の中で育ったのに清らかに育った。相手の気持ちを慮り、労れる心まで育んだ。お前の魂はその姿と相成って、神をも魅了させるのだから」

「荒日佐彦様……ありがとうございます。私は貴方に愛されて初めて安心と幸せをこの身全体で味わうことができました」
「白花は俺が初めて愛して女。唯一の俺の妻だ。これからもずっとだ」
「私は荒日佐彦様のものです。これからもずっと……」

 白花は彼の瞳を見つめる。
 瑠璃色の不思議だけれど惹かれる瞳の色。

 それが自分を一心に見つめている。そこには自分を想う光しかない。
 ただ自分を慈しみ、愛してくれる想いに満ちあふれている。

 彼の顔が近づいてきて、白花はそっと瞼を閉じた。