「……どう、して……?」

 荒日佐彦はうさぎの問いに答えず、小さい体でトコトコと歩き出す。止まった先はうさぎの足元だった。

「ここ、痛むだろう? 神経が痛んでいる」

 そう言うと、モジャモジャの手を損傷の部分に当てる。
 ホワン、と温かなものが患部に流れてきたかと思ったら全く痛みがなくなってしまった。

「微妙に足崩してて、ここだけお前らしくないと思ったら……我慢しないで言え」
「あ、ありがとうございます」

 ――気づいていた。

(こんな少ない時間で私のこと……)

 見かけが怖いから小さくなってくれて。
 怪我を治してくれて。
 私なんかが「いい」と言ってくれて。

 優しい声かけなんて宮司さん以外、してくれなかった村での生活。

 ホロホロと目から大粒の涙が溢れ、止まらなくなってしまった。

「わっ、わわっ! 何故泣く? 俺が泣かしたのか?」

 うさぎは、大慌てで走りうさぎの顔を見上げる荒日佐彦に、再度座礼をした。

「嬉しいんです。こんな私が『いい』と妻に迎えてくれようとする荒日佐彦様の優しさが……とても嬉しくて……」

「……お前は自分を卑下しすぎだ。お前のほうが俺よりずっと優しいし、心の綺麗な娘だ」
「そんな……そんなこと」

 ちょっとごめんな、と言うと荒日佐彦はほんの少し、大きくなる。今度は幼児ほどの大きさだ。

 そうして荒い毛並みの生えた手で、うさぎの涙をすくう。
 うさぎの涙は毛に吸い込み、ふわりとした柔らかい毛並みへと変化させていった。

「ほら、見てみろ。俺の相手を怪我させるほどの硬い毛がお前の涙で、瞬く間に柔らかくなっていく。この涙はお前の性質を語っている。昨夜驚かせてしまったが会った瞬間、お前の温かな優しさや纏う雰囲気の清らかさに『妻はお前しかいない』と感じたのだ」

「荒日佐彦様……」

「お前しか、俺を俺でいさせてくれる女はいない。――妻になってくれ」